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綿谷真歩
2016年1月30日 00:37
白昼に月、あなたはまた、あの白い光に焦がれているのだろうか。おれは月に焦がれない。誰が焦がれてやるものか。月よ、と思う。月よ、おまえがここまで落ちてこい。おまえのその、青い白を砕かせろ。あの人の目まで届かぬよう。——『狼』 夜闇を切り裂く、一筋の光よ。飛行機の背びれよ、翔ける白鳥の羽よ。それは今、おまえの瞳の膜をも真直ぐに切り裂いた。ぽたり、落ちる涙の雫に映るのは、空向かう者の銀翼の心か、落
2016年1月5日 23:44
「おれはおまえの幸せだろう」。そう呟いた彼の顔は昇る朝陽に照らされてよく見えない。極彩色が瞼の奥を叩くのを少女は感じた。喉の奥から絞り出した少女の声は音になっていただろうか。「あなたの幸せが、わたしなのよ」。彼はこちらを見なかった。——『幸』 あの人が死んだ、と風の便りで聞いた。特別驚きもしなかったが、ぬるい哀しみは波紋のように胸に広がる。おれも年をとったものだ、と老人はゆっくりと目頭を押し