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第20回 雇われカメラマンが写真館を開いたら(プレイングマネージャーの仕事)

大学卒業後から15年以上、雇われカメラマンであった私はプレーヤーとしてシンプルにただただ目の前のお客様の喜びのために写真を撮っていました。その後会社を設立し経営者になりました。
一般的に経営者は会社の戦略を練って人と会い、部下に指示し会社をマネジメントしていく。そんなイメージかもしれませんが、技術職であるカメラマンの独立起業しかも店舗開業はそんなに単純なものではありませんでした。
どういうことかというと、カメラマンだった私が経営者となり写真館を開業し人を雇い始めたら、プレイングマネージャーになり仕事量と範囲が膨大になったのです。
今回はカメラマンが写真館を開いたら、その人に待っている仕事がどんなものか。その具体的な内容について書いていきたいと思います。

早速カメラマン業務から。
・スケジュール調整
・取引先とのやりとりや受注
・打ち合わせ
・撮影
・データ処理
・アルバムデザインなど納品物制作
・完成品の検品と納品準備
・納品(手渡し or 発送 or Web)
・請求・勉強
などです。おそらく取引先があり請負仕事を行っているフリーのカメラマンさんはこの仕事内容に近いと思います。

そしてここからBtoCの仕事を得ようとしたり取引先を増やそうとすると……
・ホームページの制作や改変
・SNSやブログの作成や発信
・ポートフォリオや見本アルバムの制作
・営業回り
・広告出稿
などが加わります。

さらに法人化し人を雇って写真館を作り、お客様が来店する状況になると……
・来店客や営業さんの対応
・店舗にかかって来る問い合わせ等の電話対応
・店内保全
・顧客の管理とそのための制作物作成
・郵便物の処理
・備品の管理や購入
・経理事務(入出金の入力、見積もり請求書の作成)
・銀行関係(給与計算と振込、取引先への振込、税金の払込、入金確認など)
・役所関係(登記事項証明書の取得など)
・撮影以外の勉強や情報収集
・接待
<以下はシステム導入時や随時>
・複数人で業務を行うためのシステム作りやアプリ、メールなどのPC設定
・リーフレットやチラシの制作
・人事総務関係(労働保険や社会保険の加入や退職などの手続き、労働保険の年度更新や算定基礎届、月額変更届の作成、税理士さんとの打ち合わせや決算申告、資金繰り、契約書の作成)
・イベント等の企画や準備、発信と開催
・既存または新規の事業計画書作成などです。(ちなみに私の場合はこれにプラスして写真教室やセミナーの仕事があります。)

いかがでしょう?開業当初はカメラマンの業務はもちろん、その他の業務のほぼ全てを行っていました。つまり単純にするべき業務の種類が膨大に増えたということです。
私の業務が増えた理由を順番に整理すると…
①自分で集客→HPやSNSなど発信関係とブランド構築業務が増えた。
②会社にする→税務や手続きなどの書類関係業務が増えた。
③人を雇う→給与支払いや社会保険関係など人事にまつわる業務と、チームで動くためのシステム作りとPCなどの環境設定業務が増えた。
④実店舗を持つ→来客、問い合わせ、環境保全や備品、顧客管理など、単純にお客様との接点業務量が増えた。
⑤提供するサービスを増やしたりイベントや企画を行う→勉強や準備、計画、実行と単純にすることが増えた。
この量の仕事を行うために売上が少ない開業1年目でも、夜中2~3時まで毎晩写真館にいたのは自然のことかもしれません。
現在では、主に④のお客様の接点の部分をスタッフに分担してもらっていて大変助かっています。とてもありがたいことです。
しかし一方でお客様が増えたため自分自身のカメラマン業務は以前より増えている上、その他の業務の多くは未だ私が担っています。もちろんもっと多くの収益を上げられれば(上げられる見込みがたてば)上記業務の多くを外部委託や従業員の補充で賄い、自分が得意とする分野に特化できるようになるかもしれません。

ちなみに上記の業務で一番ハードルが高いのが①の「自分で集客」の部分です。
会社にいるとピンとこないかもしれませんが、いまあなたが対応しているお客様の仕事は自然と生まれたわけではありません。会社が一から築き上げた認知や信頼、または誰かが集客と受注してくれたのです。中でも新規のお客様からの問い合わせの増加と、それをコンスタントに受注に結びつきられるようになるまでには大変な努力が必要です。そこで必要なのが、ホームページやSNS、ブログ、そして広告やリアルな営業です。この部分についてはまた書きたいと思います。
①をクリアしたら次に大変になるのがやはり④です。特に実店舗である写真館を作りお客様の数が増えると、お客様の数だけコミュニケーションを取らなければなりません。受注前の問い合わせ、そして受注後の撮影の内容や日時や場所の打ち合わせそして要望などへの対応。また納品やアフターフォローなど、直接お客様を集客するということはその全てを責任持って行うということなのです。現在この部分の多くをスタッフにお願いしていますが、新規のお客様との接点はもちろん、リピーターになっていただくのがとても重要な写真館にとってはとても責任ある大変な仕事です。
このブログの第8回でBtoBtoCとBtoCのメリット・デメリットについて少し触れました。例えば結婚式場との契約などBtoBtoC取引の良いところは、一番大変な①の集客と④お客様との接点の多くを取引先が行ってくれているということだったりします。その代償としてマージンを数十%取られるのは、(まだまだ色々と問題はありますが)先方の立場から考えると最近は当然のことともいえると思えるようになりました。
今回も前回、前々回と同じような、独立開業の少し大変なイメージを伝えてしまう内容だったかもしれません。しかし、私の経験を幻想も脚色もなしのリアルで伝えることで、具体的イメージを持って本気でチャレンジしてくれる人が増えたらいいなと思っています。
なぜなら地方に写真館を開くということは、その地域にゆかりのあるお客さまが家族の成長と共に戻ってこられる場所を作ることだと私は考えているからです。つまり、すぐ潰れてしまってはその責任を果たせません。だからこそ覚悟を持った人に写真館を作って欲しいと思い、私はこの「写真館の作り方ブログ」を毎回5時間以上かけて書き無料で公開しています。(もしかしたら自分の会社のことを考えると、その時間をハレノヒの発信や休息、勉強に費やすべきかもしれません。)
いろいろと書きましたが、一連の「覚悟が必要だ!」のブログの最後に改めて「写真館作りって幸せだ!」ってことは強調しておきます。開業から3年半が経ち、写真館はお客様にとっても働く側にとっても、そして地域社会にとってももっと素晴らしい場所にすることができると確信しているので、来年あたりここ2年ほど温めてきた、地方でハレノヒ式写真館を開くための育成プログラムなんかも少しずつ始められたらいいななんて考えたりもしています。興味のある方は連絡くださいね。

(あとがき)
「この人、独立には向いてないかも」という人がたまに(いや、まあまあ)います。だからといって「やめといたら?」とは言いません。だってうまくいくかどうかなんて誰にもわからないからです。
本当に思います。『人間なんとかなる』もんです。
ただ何でも人のせいにしたり、誰かがやってくれると考えている真の怠け者さんには難しいかもしれません。経営者は疲れてても辛くても何があっても立ち続けなければなりません。自分だけならまだしも、従業員ができれば何か嫌なことがあったからといって簡単にリタイヤできません。
仕事で得られるお金とは「誰かが喜んでくれた対価」です。与えることで与えられるのが基本的にお金なのです。弱音を吐いている暇があったら、経営者は誰かを喜ばせることに時間を費やすべきでしょう。また(規模にもよりますが)お金儲けのためだけならカメラマンだけで商売を興すのは得策ではないように感じてます。ここはまた機会があれば書きたいと思ってます。

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笠原徹|地方でクリエイティブな仕事をする|ハレノヒ
株式会社ハレノヒ代表取締役/2015年、築100年の古民家をリノベーションした写真館をオープン。地方写真館の再定義を行うことによって人とまちが豊かになる仕組みをつくろうとしています。その他セミナー講師や各種メディアにも出ています。