人の話を聴くアート
ここ最近のわたしは、ある音声番組を聞くのが日課です。
ひとつは産婦人科医でヨガドクターの高尾美穂先生がやっているstandFM。
もうひとつは、叶姉妹がやっているSpotifyのポッドキャスト。
どちらも「人生相談」のように、視聴者から頂いたお悩みや質問に答えていく形式の番組です。
こういった番組にお便りが絶えないのは、もちろん発信者の人気や知名度にもよるのでしょうが、悩んでいる人が、誰かに話を聴いてもらいたい、と切実に思った時に、まわりの誰に相談したらいいかわからない、ということがあるのだと思います。
本当は身近にいるあの人に聞いてもらいたい、でも忙しそうだから、と遠慮したり、相手の心の負担になっては申し訳ない・・そんな配慮が働いたり。
お悩みの9割近くは人間関係の問題ですから、「誰に相談するか」によってはまたお悩みが増えてしまったりもするでしょう。
また、相談を受ける側としても、相手の気持ちにうまく寄り添えない、とか逆に感情移入して疲れてしまう、なんて悩みが生じてきます。
共感カフェへようこそ
NVCを学んでいる仲間には、リアルやオンラインの共感カフェを開いている人がいます。
どなたでも参加でき、その場で話されたことは他には絶対洩らさない、安心安全の場として提供されます。
共感カフェでは、聴き手は、話し手に質問したり、アドバイスするようなことは控え、相手の気が済むまで自分の耳を提供します。
こういった場が、いま切実に必要とされているというのは、それだけ日常の場で相手の話に「耳と目、心」を傾けて聴く機会が減っているからでしょう。
人はどうしても、悩んだり苦しんでいる人を見ると「なんとかしてあげたい」「励ましたい」と考えてしまうものですが、そうではなく、相手が十分に悩みや苦しみを表現するのを手伝ったり、待つことが大切なのです。
人の話を聴くときに、ひとつだけ覚えておきたいことがあります。
それは、自分自身に共感し続けること。
自己共感をすっ飛ばして、相手の話に100%自分を重ねようとするのは、相手の思いを乗っ取るようなものです。カウンセラーなど、人の話を聴くお仕事をしている人などは、毎回相手と同じ感情を味わっていたら疲れてしまいますよね。
また、時には相手の話を聴きながら、不愉快になることだってあります。
自分にもし、批判(また愚痴ばっかり言って・・)やレッテル貼り(この人って嘘つき)などの言葉が浮かんできたら、それをいったん受け容れます。
相手が、自分に対し不満があるようなときは、特にこの段階でしっかりと、自分の中の反発するエネルギーを感じてあげましょう。そして、「私はいま、怒りを感じる」「苛立っている」など自分の感情に寄り添い続けます。
「自分7:相手3」
わたしが今学んでいるヨラム・モセンゾンの講座では、共感で話を聴く時の比率は「自分7:相手3」だと教わります。いままで、相手側に寄り添おうとして結果的に「自分3:相手7」くらいで聴いたり、時には憑依してる、と言われるまで相手側に立つやり方をしてきた人には、びっくりする数字かもしれません。
ですが、やってみるとわかります。自分に共感せずに相手に寄り添おうとすると、必ずムリが生じ、相手を批判したりアドバイスしたくなったりします。相手をコントロールしたい、という欲求は、十分に自分の感情を認めていない時に起こります。
沸き上がる感情を、無視するのでも、飲み込むのでもなく、ただ認識する。そうすることで、わたしたちの中に、再び安心して相手の話に向き合えるスペースが生まれます。
自己共感しながら人の話を聴く、というのは、使ったことのない筋肉を使うような感じで、慣れないとなかなかうまくいきません。
冒頭で紹介したラジオの方たちは、いわば「共感芸」と呼べるようなスキルを駆使して、リスナーとのやりとりをコンテンツ化していますが、
「話を聴くこと=即興アート」になる可能性を、NVCに感じています。