「特定疾患管理料:三疾患除外」への対策・その3・脂質異常症を診たら・・・
脂質異常症が特定疾患療養管理料を算定できる特定疾患からはじき出される対策を考案してみます。脂質異常症が二次性であり、その原因疾患が特定疾患である場合も想定できますので、今回の記事は脂質異常症に限定して、その可能性を探っていきます。
脂質異常症を二次的に引き起こす(教科書的に記載されている)主な傷病名を下の表に挙げてみました。これらの傷病が厚労省傷病名マスターが指定している特定疾患であるなら(もちろん確定診断しなくてはいけませんが)傷病名を入力することが有効な対策となります。
まず、表にあるこれらの傷病が特定疾患であるか、どうか、を確認していきます。原発性胆汁性肝硬変症と甲状腺機能低下症は厚労省傷病名マスターが指定する特定疾患であることが確認できましたが、ネフローゼ症候群・閉塞性黄疸・クッシング症候群は特定疾患ではありませんでした。
厚労省傷病名マスターが指定する特定疾患に○を、それ以外に▲を記して、先ほどの表を作成しなおしました。
原発性胆汁性肝硬変は無症候性原発性胆汁性肝硬変として経過する時期があることが知られています。総ビリルビン値<2.0mg/dLくらいで経過している患者さんはジルベール症候群に起因する体質性黄疸と診断し、精査しないことも多いのですが、脂質異常症という傷病名もあわせ持つ場合は無症候性原発性胆汁性肝硬変の状態である可能性もあることも頭の片隅に置いておくべきでしょう。
本来、原発性胆汁性肝硬変の確定診断には肝生検を要するのですが、血清中の胆道系酵素(アルカリホスファターゼ、γGTP など)活性やIgM 値の上昇を認め、抗ミトコンドリア抗体(AMA抗体)が陽性ならば、プレクリニカルな状態の原発性胆汁性肝硬変として経過を観察すべきでしょう。もちろん原発性胆汁性肝硬変という特定疾患を傷病名に入力しておきましょう。
甲状腺機能低下症は厚労省傷病名マスターを確認すると、これに類する、甲状腺という文字が傷病名中に入っていれば軒並み特定疾患に指定されています。甲状腺機能異常、甲状腺疾患、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、甲状腺腫、甲状腺腫瘍、甲状腺腺腫、急性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、慢性甲状腺炎、・・・全て、厚労省傷病名マスターが指定する特定疾患です。顕著な症状が無くとも遊離T4低値およびTSH高値であれば、甲状腺機能低下症のプレクリニカルな状態として経過を観察すべきでしょう。甲状腺機能低下症に抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体陽性や抗サイログロブリン抗体陽性が同時に確認できれば、慢性甲状腺炎(橋本病)と診断できます。表現される症状は慢性甲状腺炎も甲状腺機能低下症も同じです。自己免疫疾患であることが違うだけです。
今回の記事では「脂質異常症を診たら、まず甲状腺機能低下症を、そして軽微なビリルビン上昇も合併しているなら原発性胆汁性肝硬変も、否定しておきましょう」という結論です。
という結論ではありますが・・・原発性胆汁性肝硬変では抗ミトコンドリア抗体が少なからず陽性となり、またシェーグレン症候群や慢性甲状腺炎とも合併する症例も認められ、原発性胆汁性肝硬変は自己免疫性疾患としての性格もあわせ持っていることを思いがけず復習することになりました。
脂質異常症を診れば特定疾患療養管理料の算定を維持することという狭小な目的ではなく、原発性胆汁性肝硬変や甲状腺機能低下症(もしくは慢性甲状腺炎)が隠れているのではないか?と疑って患者さんを丁寧に診療することが大事であることを、今回の診療報酬改定は教えてくれているのかもしれません。
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