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アストリッド・リンドグレンが残した食文化の遺産

スウェーデンで生活していると、食卓に並ぶ鶏肉や卵の品質に感動することがあります。
その新鮮さや味わい深さは他国と比べても際立っている、と夫を含むスウェーデン人は言います。
今回は、スウェーデンの鶏肉や卵がこれほど美味しい背景にあるものは何かについて、少し書いていこうと思います。

スウェーデン鶏肉や卵の品質が高い背景にあるのは、農業における厳格なルール、それを支える市民の高い食への意識、そして児童文学作家アストリッド・リンドグレンの活動が関係していそうです。

以前に投稿した記事でも触れていますが、「長くつ下のピッピ」などで知られる児童文学作家アストリッド・リンドグレンは、単なる作家にとどまらず、動物福祉の向上に大きく貢献した人物。

彼女は1970年代から1980年代にかけて、動物の飼育環境の改善を求める声を上げ続けました。

彼女の影響で、スウェーデン政府は動物福祉に関する法律を大幅に強化することに……。
リンドグレンの提案で特に注目されたのが、鶏を含む家畜の飼育環境。
彼女は、狭いケージに閉じ込められた動物たちの苦しみを見過ごすことができず、その状況を改善するための活動を続けました。

彼女の働きかけにより、1988年にスウェーデンで動物福祉法が制定。
この法律は、動物が自然な行動をとれる環境を保証するという、世界でも画期的なものです。

スウェーデンでは、鶏肉や卵の生産に関する基準が非常に厳しいことで知られています。
例えば、鶏が自由に動き回れる「平飼い」や「放し飼い」が主流。

ケージ飼育は法律でほとんど禁止されており、鶏が日光を浴びたり、地面をついばんだりできる環境が整えられています。

さらに、飼料にも厳しい規制が存在。
スウェーデンの鶏は、抗生物質や成長促進剤を使わない飼料で育てられています。
これは、消費者が安心して食品を選べるだけでなく、抗生物質の乱用による耐性菌の問題を防ぐ効果もあります。

また、出荷前の品質検査も徹底。
卵の場合、洗浄や殺菌が義務付けられており、菌の繁殖を防ぐための最適な温度で保管。
消費者に届くまでの一連のプロセスは、食品の安全性と新鮮さを保証するために精密に管理されています。

スウェーデン人は、食材の選択に非常に敏感。
彼らの多くは「エコ(環境)」を意識した食生活を送っている印象です。
多くの人が地元産の有機食品を選び、動物福祉に配慮した製品を支持しています。

例えば、スーパーに行くと、鶏肉や卵のパッケージには「KRAV」という有機認証マークが付いているのをよく見かけます。
このマークは、厳しい環境基準を満たしていることを示しており、消費者はこのマークを目印に、食の選択をすることが可能。

また、学校や企業の食堂でも、持続可能な食材を使用する取り組みが進んでいます。
これにより、子どもたちや働く人々が自然と環境や健康に配慮した食生活を身につけられる仕組みとなっています。

スウェーデンの鶏肉や卵が特に美味しいと感じられる理由は、このような厳しい基準と高い意識が結びついているから。
鶏がストレスの少ない環境で育てられることで、肉の質が向上します。

また、自然に近い飼料を摂取することで、卵黄の色や味に深みが出てきます。さらに、新鮮さも重要な要素。

スウェーデンでは、生産から消費までの流通が短期間で行われるよう工夫されており、食材がいつも新鮮な状態で消費者の手に届くようにされています。

スウェーデンに旅行で来た友人が、キッチン付きのアパートメントホテルに滞在していたときのことです。
その友人はスーパーで購入した鶏肉の新鮮さに驚き、「鶏肉からタマゴの香りがする」と感動していました。

また、私自身も日本に一時帰国した後、スウェーデンに戻るたびに感動するのがゆで卵。
スウェーデンのゆで卵は黄身の色が鮮やかで、口当たりが滑らか。
ボソボソせず、しっとりとしていてとても食べやすいのです。
特に朝食で塩を少し振ったゆで卵を食べると、その豊かな味わいに自然と感謝の気持ちが湧いてきます。

我が家では、うちから車で20分程の場所にある養鶏場の卵を毎日いただいています。
何度かそこを訪れたことがあるのですが、広々とした場所でニワトリたちが放し飼いにされていました。
そこの卵はうちの近所のスーパーに卸されており、いつでも気軽に購入することが可能。

他にもそれよりも低価格の卵も売られてはいますが、その近所の養鶏所に今後も存続してもらいたい、新鮮なタマゴを気軽にいただける環境を維持したいという想いもあり、いつもそこの卵を購入しています。

その養鶏場の存在が、私たちの日常生活の豊かさを支えているのだと感じています。

さらに、食事をするたびに感じるのは、命あるものをいただいているという深い感謝の念です。

動物も植物も、その命を私たちに与えてくれる存在。
それらが持つエネルギーを身体に取り込むことを考えると、食材を一口一口大切に味わうことが自然と習慣になります。

スウェーデンの鶏肉や卵はその美味しさを通じて、食べるという行為が尊いものであるということを教えてくれているようです。

私たちが日々食べる食品の背景には、多くの人々の努力や思いが込められています。
スウェーデンのように、環境や動物、そして消費者の健康に配慮した仕組みがあることは、とてもありがたいこと。

これからも、美味しい鶏肉や卵を楽しむとともに、その価値を知り、感謝の気持ちを持ち続けたいと感じます。

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