「長靴下のピッピ」の生みの親 作家 アストリッド・リンドグレンの魅力
昨日の記事で書かせてもらった、スウェーデンの児童書「長靴下のピッピ」の作者である、スウェーデンが誇る児童文学作家アストリッド・リンドグレン。 昨日の記事 ↓
https://note.com/hal_swe_jp/n/nb01d31ce9ad6?sub_rt=share_pw
アストリッド・リンドグレンは、生み出してきた作品の魅力だけでなく、生涯を通じた多彩な活動で多くの人々に影響を与えた人物。
彼女の人生や活動について知っていくと、彼女がどのようにして世界中の読者の心をつかみ、社会に影響を与えたのかが見えてきます。
今回は、そんな彼女について書いていきたいと思います。
少女時代から文学の芽が育つ
アストリッド・リンドグレンは1907年、スウェーデンの南部にあるヴェムメルビューという小さな村で生まれました。
自然に囲まれたこの村で、彼女は三人の兄弟とともに自由でのびのびとした子供時代を送りました。
この環境が、後の彼女の創作活動に大きな影響を与えたことは言うまでもありません。
日本のみなさんには、あまり馴染みがないかもしれませんが「長靴下のピッピ」以外にも、「エミール」、「屋根のうえのカールソン」、「やかまし村の子ども達」、「さわぎや通りのロッタ」などなど、世界中で愛される作品が彼女の手によって生み出されました。
アストリッドは学校の作文の授業で才能を発揮し、それは先生や同級生たちを驚かせるほど。
卒業後は地元の新聞社で記者として働き始め、ここで文章を書くことの楽しさを改めて感じます。
しかし、若くして結婚と出産を経験。
家庭と仕事の両立を図る中で、次第に文学への情熱が再燃していきました。
世界中で愛される「長靴下のピッピ」
彼女の名を一躍有名にしたのが、1945年に出版された『長靴下のピッピ』。
この物語は、彼女が病気の娘を元気づけるために即興で語った話をもとに作られた作品。
ピッピは、伝統的な "お行儀の良い女の子" 像を覆す、強くて独立心旺盛な少女。彼女の奇想天外な冒険やユーモアあふれる言動は、当時の社会に新しい風を巻き起こしました。
ピッピのキャラクターはただのおてんば娘ではありません。
彼女は親と一緒に暮していないという状況にありながら、誰にも頼らず自由を満喫し、弱い者を助ける優しさも持っています。
こうした複雑な側面が、多くの読者に共感と憧れを与えました。
この作品は瞬く間にスウェーデン国内で人気となり、その後も世界80以上の言語に翻訳され、現在でも多くの人たちに読み継がれています。
彼女の物語には、スウェーデンの美しい田園風景や、子どもたちが繰り広げる日常の喜びや冒険が生き生きと描かれています。
それだけでなく、少年探偵が活躍する推理もの、幻想的なファンタジーまで非常に幅広いジャンルにわたる作品が生み出されてきました。
特に『長靴下のピッピ』『やかまし村の子どもたち』『ロッタちゃん』などは、テレビや映画化もされ、多くの人々に親しまれています。
どのジャンルでも、心に残る深いメッセージが込められているのは共通しています。
児童文学以外の顔
アストリッド・リンドグレンは、児童文学作家として知られる一方で、社会活動家としても注目を集めました。
特に動物福祉や環境保護の分野で活躍。
鶏の飼育についての彼女の活動は特筆に値します。
彼女は、スウェーデンで行われていた非人道的な家畜の飼育方法に強く反対し、意見を発信。
特に鶏舎の狭いケージに閉じ込められた鶏の現状を批判し、より倫理的な飼育方法を求める運動を推進しました。
この活動が実を結び、1988年にはスウェーデンで「アストリッド・リンドグレン法」と呼ばれる動物保護法が制定されました。
さらに彼女は、子どもの権利擁護者としても知られています。
彼女はあらゆる虐待に反対し、子どもたちの自由と幸福を守るために声を上げ続けました。
彼女の作品には、子どもたちが純粋な喜びを持ち、のびのびと成長できる環境の重要性が一貫して描かれています。
この活動は、彼女の創作活動と相まって社会に対して深い影響を与えました。
お札になったリンドグレン
リンドグレンの功績を称え、彼女の肖像は2015年からスウェーデンの20クローナ紙幣に使用されています。
この紙幣には、彼女の肖像だけでなく、『長靴下のピッピ』に登場するヴィッラ・ヴィレクッラの家や、スモーランド地方の風景も描かれています。紙幣に児童文学作家が選ばれるのは珍しいことですが、これは彼女がスウェーデン文化に与えた影響の大きさを物語っています。
この紙幣は今も存在していますが、キャッシュレスが急速に進んだスウェーデン社会では、現金自体を手にすることがほとんどなくなってしまい、実物を見たことないという人もいそうで、それが少しだけ寂しく思われます。
ユニバッケンで広がるリンドグレンの世界
ストックホルムのユールゴーデンという島には、ユニバッケンという小さな室内テーマパークがあります。
このテーマパークは、リンドグレンの作品を中心に据えており、彼女の描いた物語をまるで本当に旅しているかのような気持ちにさせてくれます。
アストリッド・リンドグレンの世界を存分に体感するには最高の場所。
特に人気なのが「ストーリートレイン」と呼ばれるアトラクション。
このアトラクションでは、リンドグレンの物語のシーンを再現したジオラマを見ながら、まるで彼女の創造した世界を冒険しているかのような気分を味わえます。
「長靴下のピッピ」の家や「やかまし村の子どもたち」の風景など、ファンにはたまらないスポットが満載。
さらに、子どもたちが遊びながら物語に触れられるプレイエリアや、スウェーデンの伝統料理を楽しめるカフェもあります。
また、演劇などを学んだと思われるスタッフたちが、スウェーデンの子ども達に人気の物語の一場面を寸劇のような感じで見せてくれるミニシアターのようなものもあり、小規模ながらも大人も子どもも一日中楽しめる場所となっています。
リンドグレンの魔法のような世界を実際に体感し、彼女の作品の魅力をさらに深く味わえる特別なスポット、もしストックホルムを訪れる機会があれば、立ち寄ることを全力でお勧めします。
私自身、娘が1歳を過ぎたあたりから、この施設にはとてもお世話になりました。年間パスを購入して、娘が保育園に通う年齢になるまでは週一は通っていました。
子どもが小さな頃は、そんなに大きな場所に行っても子どもが(親も)疲れてしまって、それほど満喫できません。
このこじんまりしたスペースで、一日に数回「ストーリートレイン」に乗り、スケジュール表に合わせてミニシアターで日に何度か行われる劇を鑑賞し、カフェで美味しいものやランチをいただいて過ごす。
もう最高の一日です。
アストリッド・リンドグレンは、ちょっと孤独だった私の子育てを支えてもらった恩人です。
愛される理由とエピソード
リンドグレンの魅力は、その創作だけに留まりません。
彼女は読者との交流を大切にし、ファンレターに一通一通丁寧に返事を書き続けました。
また、彼女の家にはたくさんの動物が飼われており、その愛らしい動物たちが彼女の執筆活動にインスピレーションを与えることも多かったようです。
エピソードとして有名なのが、彼女が自身の90歳の誕生日にスウェーデン国民から贈られた祝賀行事の話。
彼女は謙虚な性格で、このような大規模なイベントには気恥ずかしさを感じたと言われていますが、同時に多くの人々が彼女の存在をどれほど愛しているのかを改めて実感した出来事でした。
今なお息づくアストリッド・リンドグレンの精神
アストリッド・リンドグレンは2002年に94歳でこの世を去りましたが、彼女の精神は今も生き続けています。
スウェーデンでは彼女の名を冠した子ども文学賞「アストリッド・リンドグレン記念文学賞」が設立され、毎年優れた児童文学作家に贈られています。
彼女が残したメッセージ「自由と独立、自分自身を信じる力、他者への思いやり」は、時代を超えて多くの人の心に響きます。
彼女の本を読むことで、子どもたちだけでなく大人もまた、自分の中に眠る冒険心や優しさを再発見できるのではないでしょうか。
彼女の本は、日本語に訳されている本も多くあります。
お子さんへの読み聞かせももちろんおススメですが、私たち大人が普通に読んでもワクワクしてくる楽しい物語たち。年齢に関係なくお勧めです。
もし興味が出てきたら、是非読んでみてくださいね。