DIY 都市を作ろう
先日ふと思い立ち、Facebook に以下のような書き込みをしたところ、予想していたより大変多くの皆さんに反応をいただきました。
大変ありがたいお話でございまして、既にいくつかの地域の市長や団体とミーティングの予定を入れさせていただいております。
ミーティングに先立ち、「なぜこういうことがやりたいのか」「どういうことをやりたいのか」「どのように貢献したいのか」について共有させていただきたいと思い、このエントリを書きました。
「スマートシティ」って、何のため?
巷では、「Society5.0」とか、「スマートシティ」とか、「スーパーシティ」とかの用語が飛び交っています。そのためのプラットフォームとして、データ共有基盤が必要とか、都市OSが云々とか、自治体政策においても様々な施策が検討されていますし、多くの予算が投下されようとしています。私自身も政府の検討委員として発言(注1)していたりするので口幅ったいところですが、どうも空虚に聞こえてしまう計画を時々拝見します。「あー。これはITベンダーやコンサルの提案通りに申請書を書いてるな」と感じるようなものです。Society5.0 に関する違和感については、今年2月に似たようなエントリを書かせていただいております。
上のエントリにも書きましたが、「誰がやるのか?」を無視したプレイヤー不在の議論がますます増えてきたように感じます。Code for Japan 理事の太田直樹さんも、いわゆる「いつものメンバー」からの脱却の必要性を語り、「改めて、どんな社会や街にしたいのだろう」との問いを発しています。
海外では「フィールド・オブ・ドリームス症候群」などと揶揄されますが、プラットフォームを作ったからといって人々が協力してくれるようになる訳ではないのです。Code for AIZUの藤井さんも、「味噌汁理論」でその事を語っています。(注2)
Code for Japan は「ともに考え、ともにつくる」をモットーとして活動しています。テクノロジーありきではなく、コミュニティありきの活動であり、コミュニティの発展に寄与しないスマートシティにはあまり興味がありません。それを具体化するコンセプトとして、「DIYな都市」を推進したいと思います。
スマートシティとは本来まちづくりのことであると思います。これまでまちづくりのフィールドで頑張ってきた様々なコミュニティと、横文字の「スマートシティ」の間に断絶を感じます。その両者をブリッジする言葉が必要なのではとも思うのです。
「DIYな都市」とは
DIY、つまりDo It Yourself で都市を作っていこうという考えです。地域で暮らす人たちや、その地域を愛する人たちが主役になり、自分たちでどんなまちにしたいのか、そのためにどんなことが必要なのかを考え、手を動かし、自分たちでつくっていく都市です。できるだけ多様な人がまちづくりに関わり、「要望する」のではなく「つくる」側として参画します。そこでは、自分のためや誰かのために何かをつくる人が称賛され、さまざまな人の助けを借りながらアイデアを形にしていくことができます。最初はなかなかうまくいかないかもしれませんが、いろいろなものを作っていく過程を通じて、コミュニティ自体の経験値が貯まり、できることが増えていきます。
DIYな都市では、有識者ではなく「自らつくるひと」が尊重されます。
コンセプト自体は従来のまちづくりで語られてきた文脈に沿ったもので、実は目新しいものではないと思います。スマートシティに代表される「IT的な何か」によって生まれてしまった分断を埋め、改めて住民にフォーカスを当てていく活動です。
どんなことをするのか
「DIYな都市」のコンセプトを推進する地域と共に、さまざまなプロジェクトを行っていきたいと思います。テクノロジーファーストにはしないとはいえ、私達の強みはテクノロジー活用にあります。テクノロジーを、以下のような用途で使うお手伝いをさせていただきたいと思います。
■新しい参画方法をつくる
DIYの都市には、行政と「つくるひと」がともに考え、ともに企画をする場所が必要です。そのために、透明性の高いガバナンスや、データの公開、開かれた意思決定ができる場をつくります。具体的なアイデアとしては、以下のような手段が考えられます。
・インターネットとオフライン、双方を活用した住民参加型のまちづくり計画づくり
・vTaiwan(注3) や Decidim(注4) のような参加型ルールメイキングや参加型予算編成プロセスの推進
・市民と行う、プロトタイピングの場づくり
・データに基づいた政策立案の推進(注5)
・データ連携基盤の導入(必要になったら。可能な限りオープンソースで)
■幸福度をベースにした指標をつくる
スマートシティやスーパーシティが目指すべきKPIとは何でしょうか?私は、「幸福度」だと思います。スマートシティで語られるアウトプットは、物理的なサービスであることが多いです。自動運転、遠隔診療、ドローン配送、AI家電などなど・・・しかし、「便利」のみを追求する先に、本当に答えがあるでしょうか。
例えば、自動運転で誰にも頼らずに買い物に行けるよりも、コミュニティ内で買い物を無理なく助け合い、感謝しあっている方が幸福度が高いかもしれません。また、資源を無駄にせず循環型経済を追求する方が、AI家電を使うより幸福度が高いかもしれません。
手段を目的とせず、住民が幸せのために手段を選ぶ、一部の人だけでなく、なるべく多くの人たちが幸せだと感じる、そんな地域を目指すために幸福度を使った指標を作りたいと思います。
■オープンにつくる
「DIYな都市」のためには、コミュニティ自体も学習する必要があります。スマートシティはどこからか買ってくればよいものではなく、自らつくるものです。有識者やITベンダーの言うことを盲目的に採用したりはしません。Code for Japan 自身も、何か正解を知っているわけではありませんので、共に学びながら伴走させていただきます。
正解を知らない以上、試行錯誤をしながら学んでいくことになります。失敗もすると思います。失敗を失敗のまにせず学習につなげる近道は、オープンにすることです。DIYな都市は、失敗自体を計画に折込み、学習機会として外部にオープンにします。
行政課題や地域の課題をオープンにし、それを解決できるアイデアを広く募集し、企業とも共にサービスを作ります。(注6)
また、作ったものを広くオープンに公開することで、いろいろな人を巻き込み成長していきます。(注7)
■皆でつくる
色々と偉そうなことを書いていますが、Code for Japan は小さな組織です。できることも限られていますし、テクノロジー以外の領域にはあまり強みはありません。DIYな都市には、従来の行政の経験や、まちづくり関連の先達の知恵や、サービスデザイン等の参加型デザインに関する知見も必要です。ゼロから作るのではなく、既に活動している様々なプレイヤーともともにつくっていきたいと思います。すでにいくつかの団体と連携の検討が始まっています。DIYな都市づくりをともに実施していきたい方がいたら、ぜひご連絡ください。(注8)
どんな地域とつくりたいのか?
DIYな都市には、トップダウン、ボトムアップ両方からの力が必要だと思います。首長の理解がないと、オープンなガバナンスづくりは難しいと思いますし、例えば参加型予算編成などはなかなかできません。一方、首長が号令をかけても、地域コミュニティ側に呼応するプレイヤーがいなかったり、参画の意欲が全くなく要望ばかりだったり、更にひどい場合には批判ばかりしているような状態では物事はすすみません。
地域のコミュニティが主体的に活動することが大事ですので、そのようなプレイヤーがいるところから初めたいと思います。
可能であれば、トップダウン、ボトムアップ双方にやる気のある人が理想です。都市のサイズは特にこだわりません。
複数の地域に関わらせていただけるようであれば、その地域間でも学びを共有する環境を作りたいと思います。
Code for Japan 以外でも、既にこのようなコンセプトに取り組んでいるような所もあると思います。「既にDIY都市づくり、進めているよ!」というところがあれば、ぜひ教えて下さい。勉強させていただきたいと思います。
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注1:内閣官房「スーパーシティ」の相互運用性の確保等に関する検討会 委員など
注2:CODE for AIZUとか諸々の活動について|Fujii Yasushi|note
注3:vTaiwan は、市民が立法づくりに参加できる市民参画プラットフォーム。参考「ネットの意見が法を作る」デジタル民主主義で世界をリードする台湾の挑戦(MIT Technology Review)
注4:Decidimはバルセロナやヘルシンキなどで使われているオープンソースの参加型民主主義プラットフォーム。
注5:たとえば、Code for Japan と裾野市は、政策立案におけるデータ利活用推進に関するパートナーシップ協定を結んでいます。
注6:私自身は神戸市チーフイノベーションオフィサーとして、スタートアップ連携を推進してきました。
注7:行政がオープンソースに投資すべき理由|note
注8:info@code4japan.org にメールください。