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国連電子政府ランキングのeParticipation部門で日本が首位を獲得

9/28に公表された国連電子政府ランキングのe-Participation部門で日本が第1位を獲得しました。2020年の前回調査では4位だったのですが、今回の調査で一気に首位に躍り出た形です。ちなみに、総合ランキングでは前回と同じく14位となっています。総合ランキング1位は前回と同じくデンマーク、2位はフィンランド、3位は韓国となっています。フィンランドは前回4位、韓国は2位でした。前回3位だったエストニアが8位になっているのには驚きました。
https://publicadministration.un.org/en/Research/UN-e-Government-Surveys

e-Participation Indexとは?

電子政府ランキングの中でも、e-Participation に関する指標についてのランキングになります。国連では、e-Participation を以下のように定義しています。

e-Participationとは、情報通信技術(ICT)を通じて、市民参加やオープンな参加型ガバナンスを促進すること。(中略)その目的は、情報や公共サービスへのアクセスを改善し、政策決定への参加を促進することであり、それは個々の市民のエンパワーメントと社会全体の利益の両方につながるものです。

https://publicadministration.un.org/en/eparticipation から引用(筆者訳)

具体的には、以下のような項目が調査対象となっています。

i 政府のポータルサイトやウェブサイトにおける参加型予算編成や類似のメカニズムを統合するための政府のポータルやウェブサイト
ii 主にSDGsの達成に密接に関連する6つの主要セクター(教育、雇用、環境、健康、司法、社会的保護)に関するオープンガバメントデータ(OGD)の利用可能性
iii 共同サービス提供のための協働や共創メカニズムの証左
iv 社会的弱者に関連する問題についての政策の策定や、採択に結びついた議論と意思決定プロセスにおいて、人々の声が聞かれていることの証左
v 脆弱な立場にある人々の参加を促進するために設計されたオンライン協議(eフォーラム、e投票、eアンケート、またはその他のe参加ツールによる)の証左

UN e-Government Survey P. xxi から引用(筆者訳)

国民の政治参加を促すために、オープンデータを含む情報提供と、具体的な参加の枠組みや仕組み、そして社会的な弱者が実際に意思決定に参加していることが求められているということです。
レポートでも書かれていますが、市民参加はガバナンス上重要であり、「すべてのレベルにおいて、応答的、包括的、参加型、代表的な意思決定を確保」することを求めるSDGsのターゲット指標16.7でも強調されています。情報通信技術を利用して公共の意思決定やサービス提供に人々を参加させることは、電子政府の不可欠な要素なのです。

日本の何が評価されたのか?

では、いったい具体的にはどういった点が評価されたのでしょうか。e-Participation ではプロセスを重視しており、政府が国民に基本的な情報を提供するプロセスから始まり、協議を経て意思決定が行われるまでのフレームワークで成り立っています。

Box A.1 E-Participation Framework
1.E-information:市民からの要求の有無に関わらず公的な情報を提供し、市民参加を可能にする
2.E-consultation:公共政策やサービスについての討議や貢献についての機会が提供されている
3.E-decision-making:政策オプションの共同設計、サービスの構成要素と提供方法の共同制作を通じて市民をエンパワーメントする

UN e-Government Survey Box A.1 (筆者訳)

日本は、それぞれ1点満点中、E-information が 0.98、E-consultation が 1、E-decision-making が 1 となり2項目で満点を獲得しました。どうしてこのような高評価に至ったのかを掘り下げてみましょう。

報告書のP.98では、ローカルレベルの自治体の取り組みについて紹介しています。

A figure of Implementation of services provision indicators in city portals(percentage of cities).
市のポータルにおいて提供されているサービスの実装度

最も多くの市が行っているのはソーシャル・ネットワーキングを利用した情報提供で、86%以上が当てはまっています。日本の多くの自治体は、上の表の上位5つくらいまでの施策はやっているところが多いのではないでしょうか。6番目の Online deliberation processes が、最近話題になってきている市民参加ツールです。7番目、8番目はオープンデータに関するものです。
この章では、日本について以下のように解説されています。

日本では、国が開発し、民間企業が運営するオープンな対話プラットフォームを地方自治体が利用しており、これらのプラットフォームの中には、オープンソースソフトウェアを使用しているものもある。

UN e-Government Survey P.98 (筆者訳)

「国が開発し、民間企業が運営するオープンな対話プラットフォーム」という部分はアイデアボックスを指していると考えられます。アイデアボックスは国ではなく自動処理社が開発したものなので若干誤解もある気はしますが。
「オープンソースソフトウェアを使用しているもの」というのはCode for Japan でも様々な市に提供しているバルセロナ生まれのオープンソースソフトウェア、Decidimのことだと捉えて問題ないと考えます。ちなみに、日本の e-Participation の分野には PoliPoliIssuesLiqlid 等色々なサービスが存在しています。

他国の事例も参考になるので、興味がある方はぜひ元レポートを参照いただきたいのですが、市民との対話ツールの提供だけではなく、オープンデータによる情報発信や、市のサービスに対する市民からのフィードバックの仕組み(自治体へのレポート投稿など)についても言及されています。

特に、オープンデータの提供については以下のように語られており、市民参画のためのオープンデータを重要視していることがわかります。

オープンデータの提供は、自治体が政府のデータを誰でも利用できるようにすることで透明性、説明責任、価値創造を強化するだけでなく、住民が意思決定プロセスに参加できるようにするために不可欠である。タリン市はこの点で注目に値する。タリン市は住民、研究者、機関向けにオープンデータセットを提供し、都市開発計画プロセスにもこれらのステークホルダーを参加させている。

UN e-Government Survey P.99 (筆者訳)

インクルーシブデザインの前提としての e-Participation

報告書の後半、P.141 からは、デジタル/アナログのハイブリッド社会において、誰もが取り残されない社会を作るために e-Participation ができることについて解説しています。

公共機関は、最も貧しく脆弱な人々に積極的に働きかけ、電子政府政策の形成や彼らのニーズに対応した電子サービスの設計に彼らを参加させる必要がある。これには様々な手段やアプローチが必要であり、政策手段の選択は「プロセスが透明で、利害関係者が関与しているかどうか」によって部分的に決定される。
このようなアプローチは、関連するコミュニティと関係する政府機関が目的を一致させ、脆弱な集団のニーズに対応するために互いに協力し、ボトムアップの統合的な方法で設計・実施された場合にのみ成功する。

UN e-Government Survey P.142 (筆者訳)

この章では、社会的弱者が政治的決定に参加できる枠組みを作ることの必要性について注意深く言及しており、ただ単にオンラインツールを用意して一般の意見を聞けば良いということではなく、障害者や若者、NGO等へのアウトリーチや、声を聞くプロセス設計を重視しています。

弱者層には、意見を聞いてもらうだけでなく、e-Participation を通じてコミュニティの強靭性を高めるための変革の担い手として参加してもらう必要がある。人々や非政府組織(NGO)が、サービス提供を取り巻く現実について客観的なフィードバックを提供できれば、公共サービスの価値が高まる。これは、障害を特定し、格差に注意を促し、現実的な対応を促すのに役立つからである。
e-Participation は、誰も取り残されないことを目的とした取り組みにおいて、従来の市民参加の形態を代替するのではなく、補完するものでなければならない。対面での会議、紙ベースのコミュニケーション、電話、実際の掲示板、その他の実地での様式は依然として重要である。

UN e-Government Survey P.98 (筆者訳)

取り組みを深化させていく必要性

以上、レポートの中身を紹介させていただきました。e-Participation Index で首位を獲得したことは喜ばしいことではあります。一方で、レポートを読み込んでみると、e-Participation の目的である市民参加や、社会的弱者の参加によるインクルーシブな政策づくりの点ではまだまだやるべきことがあるという印象を持ちました。調査フレームワーク上の項目では確かにそれぞれの仕組みを備えてはいるのですが、「深さ」についてはまだまだ足りないと感じます。社会的弱者にリーチできていると自信を持って言える状況にはまだありません。オープンデータについても、市民参画の視点を意識していない自治体も多い印象です。

Code for Japan では、加古川市を皮切りに様々な自治体に Decidim の導入を行ってきましたが、レポートにある通りオフラインのプロセスとオンラインのツールを組み合わせることがとても重要だということが分かってきています。また、自治体側が対話の重要性を理解し、必要なステークホルダーに対して意見を求めに行く姿勢無しには参加型プロセスは発展していきません。手間もかかりますし、参加型プロセスの導入にはそれなりの覚悟が求められます。

各国の参加型プロセスのユースケース集である Participedia には、参加型予算編成やくじ引きで選出された市民が参加する第二議会など、いろいろな工夫がまとめられています。

e-Participation のランキングに恥ずかしくないような事例を積み重ねていけるよう、改めて気を引き締めて活動していきたいと思います。

参考情報

9月に行った Code for Japan Summit では、関連するセッションがいくつかありますので良かったら参考にしていただければと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=sWA2qPQcPpU

また、Code for Japan の Slack に #proj-dpps というチャンネルがありますので、ご興味ある方はぜひご参加ください。一緒にこの分野を盛り上げていきましょう。


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