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東京都がオープンソースソフトウェアを活用するためのガイドラインを公開

[免責注意事項] 私、関治之は東京都のフェローとして本ガイドラインをレビューした他、記事中にかかれている TokyoOSSParty! の企画運営を行う株式会社HackCampのCEOでもあります。この記事は金銭等を対価としたPR記事という訳ではありませんが、参加者を増やす事で間接的に利益を得る立場にありますので、ご承知おきください。

2021年10月27日、東京都が「オープンソースソフトウェア公開ガイドライン」(以下OSSガイドライン)を発表しました。この記事では、その背景や意義について解説を行います。

ガイドライン自体は東京都の GitHub リポジトリーにて公開されています。

ガイドライン公開に合わせ、地域課題を解決するためのプログラム Tokyo OSS Party! という企画もスタートしています。今年はその一環としてハッカソンを行う予定です。

ハッカソンに先立ち開催された事前説明会では、Code for Japan フェローの古川さんのモデレーションのもと、OSSガイドライン策定に携わった東京都デジタルサービス局 戦略部サービス開発担当部長の荻原さんや、ガイドラインのレビューなどでもご協力頂いた Linux Foundation Japan 代表の福安さん、北海道職員でありながらオープンソースにも詳しい喜多さん、そして私が様々な角度から自治体×OSSについて語りました。動画も下記で公開されています。

自治体による、初のOSS活用ガイドライン

荻原さんによると、このOSSガイドライン作成のきっかけになったのは東京都の新型コロナウイルス対策サイトということです。サイトをオープンソースで公開したところ、数多くの開発者が改善に協力してくれた他、様々な自治体で派生形のサイトが生まれていきました。これを見た東京都は、自治体が自分たちの情報資産をOSSとして公開することの価値に気づきました。

一方、OSS公開の価値自体は実例として分かったものの、自治体が作ったものをオープンソースで公開する、ということはこれまであまり前例がない状況でした。どのようなソフトウェアを対象にするのかや、どのようなライセンスを選ぶのか、調達時にどのような条件をつけるのか、セキュリティの担保やメンテナンスはどうするのか、といったことをクリアしないと、組織としてOSSを推進するのは難しかったのです。

そこで、デジタルサービス局は自治体職員が躓きがちな部分についての指針を示すためにガイドラインの策定を行うこととし、様々な専門家のレビューを経て、0.1.0 版が公開されました。(下記画像は、説明会の中で東京都荻原さんが使ったスライドより抜粋)

OSSの定義。OSS化の検討、OSSにおける権利の記載、関連資産の公開、OSS公開後の評価、という項目が順番に並んでいる

荻原さんは、発表の最後に、OSSガイドラインの意義を端的に以下のように示しました。また、「是非他の自治体にも活用して欲しい」と締めくくっています。

OSSガイドラインの意義。職員がOSSを知る、そして使えるようになる、OSSで作成した結果をガイドラインにフィードバック、他自治体とOSSやガイドラインを相互利用

事業とOSSはもはや切り離せなくなっている

続いて、Linux Foundation Japan の福安 徳晃代表からOSSの現状についてお話いただきました。今の時代、ソフトウェアを使われているサービスで、OSSを使っていないものを身の回りで探すのは困難なほどOSSは普及しています。(調査によると、70〜90%をOSSが占めているそうです)

事業者がOSSを活用するのが当たり前になってきている動きが、これからは自治体にも広がっていくのは自然の流れでもある、と解説いただきました。OSSが事業に大きな影響を与える状況の中で様々なベストプラクティスが生まれてきている他、利用者側がOSSに関するリテラシーを上げていくことが重要視されています。

また、印象深かったのは、オープンソースコミュニティにも階層構造は見られるが、階層=指揮系統というわけではなく、信頼(Web of Trust)でつながっていることが特徴であるという点でした。
信頼を担保するためにすべてのコミュニケーションの透明性が確保されており、それにより共創が促進されます。尚、Linux コミュニティがバージョン管理に Git を導入した後、コミット数やコントリビューター数が飛躍的に増加したそうです。

Linux カーネルの開発スピードを支える仕組み。改造構造やプロセス、ツールについての紹介がされている

また、OSSの世界ではまず動くものを実装することが最も重要で、作ったものを見ながら議論をすることでコミュニティが活性化していくというプロセスを教えていただきました。まず仕様書を作り、調達を通じて企業を選定し、仕様通りに粛々と開発をしていく従来の開発スタイルに対して大きな違いを感じる部分ですね。実際に、東京都の新型コロナウイルス対策サイトでも、このようなCode Firstの文化で開発が行われていまます。

Code First として、まずは実装することと、その理由が書かれている

行政こそオープンソースを活用すべき理由

最後に、なぜ行政がオープンソースを活用すべきかについて、私からも発表させていただきました。下記がスライドです。

結論から言えば、下記の3つの理由があります。

1. 進めたい政策の理解や発展につながる
2. 自治体ごとに同じような システムを個別に作らなくて良くなる
3. 社会的な知的資本の蓄積に繋がる

詳しくはプレゼン資料を見ていただきたいのですが、2の効果は大きくて、国内に1741ある自治体が毎回独自でシステムを開発するのではなく、かといって国が用意した単一のシステムを使うのでもなく、どこかの自治体が作った良いシステムを公開し、それを他の自治体が利活用し改善をフィードバックしていくようになれば、自治体の多様性を守りつつも税金の有効活用が見込めます。また、市場での競争効果も生まれ、サービス品質や企業の能力も上がるでしょう。

それだけでなく、日本全体に巨大なオープンソースコミュニティが生まれます。大手企業だけでなく中小企業や一般開発者も関わりやすくなり、GovTechを中心とした大きな競争市場が生まれます。

この主張については、以前 note にも書かせていただいておりますのでご興味あればご覧ください。

この動きを応援するには、多くの人の賛同が必要

さて、私のプレゼンで示したように海外政府ではOSS戦略は珍しくは無いのですが、日本ではまだまだ前例が少なく多くの自治体で反対の声が上がることが想定されます。東京都庁の中でも、このガイドラインを浸透させるには時間がかかるでしょう。

実際、説明会内のパネルディスカッションでも、「前例が無いと上司を説得できない」「セキュリティ担当が理解してくれない」「わが市の税金を使って作ったものをなぜ他の自治体に無料で提供するのか」などといった声がありOSSに踏み込めない、という事例を聞きました。

せっかく東京都が踏み出した第一歩ですので、ぜひ皆様にも応援いただければと思っています。

技術者やデザイナーの方へ:今回のガイドラインは、PDFだけでなくMarkdown形式でGitHubに公開しています。Issue や Pull Request も受け付けていますので、何かフィードバックがありましたらGitHub上からぜひご連絡ください。(star もぜひ!)単純に応援の声を届けられるIssueも立ててみたので、応援の声なども届けられると嬉しいです。(行政に取って、反響は重要!)

また、Tokyo OSS Party! ではハッカソンスタイルのイベントも開催予定です。ぜひこちらにご参加いただき、一緒にプロトタイピングをしましょう!自治体職員も参加しますので、Code First の価値をお伝えしたいと考えています。実際に良いものができたら自治体で採用することも検討してくれます。

政府の方へ:パネルディスカッションでは、「デジタル庁が、OSSを推進するようなガイドラインを作って欲しい、自治体に勧めて欲しい」なとという声が上がりました。国のトータルコストが下がることでもあり、相互運用性の面や標準化の面でも有効な施策になります。ぜひ、OSS戦略を国として定める、ガイドラインやディスカッション・ペーパーを発出する、などの動きをお願いします。(私も頑張りますが)

自治体の人へ:ぜひ、今回のガイドラインを参考に、自分たちの自治体内でもOSSについて議論したり、ガイドラインを策定してください。このガイドライン自体オープンソースですので、そのまま流用しても問題ありません。何かご質問などあれば、東京都の方に言っていただいても構いませんし、私もサポートいたします。

上記のいずれでもない方へ:SNSなどで応援いただけるだけでも嬉しいです!

蛇足的な感想

福安さんの講演の最後で、 sinsai.info について言及いただました。2011年に私が開発リーダーをしていた、震災情報を集めるサイトです。このときの経験は私の原点であり、ここから「オープンソースカルチャーを行政に適用することができれば、行政サービスも参加型でアップデートできるのではないか」という発想が生まれたのです。

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あれから10年も経ってしまいましたが、ようやく東京都がOSSガイドラインを公開するというエポックな出来事にまでたどり着きました。無茶な意見に耳を傾けてくれる自治体の方々、活動を共にしてくれている仲間、東京都新型コロナ対策サイトを今でも改善し続けてくれているコントリビューターの皆様に感謝です。これからも、ワクワクしながら、少しづつ身の回りの事を改善していけるような機会を作っていきたいと思っています。

最後まで読んでいただきありがとうございました!ぜひ、ガイドライン本体に目を通してみてください。


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