【宇宙】世界の粘度(ドロッ度)ってどんぐらい?
本エッセイは素人が宇宙の粘度(ドロッ度)を科学的に考えてみるNOTEです。宇宙は本当に分かんないことだらけですが、ふと「宇宙ってどんだけドロッとしてるんだろう?」と興味が湧いたので自分なりにざっくりと見積もってみました。考え方が合ってるのかどうかは分かりませんが、興味のある方は最後までどうぞお付き合いください。
0.最強クラスのドロッ度を持つ液体:ピッチ
この世界にはおよそ10年に1滴垂れる超高粘度の液体が存在します。「もはやそれは固体じゃないのか?」とツッコミたくなりますが、そいつの正体はピッチと呼ばれる見た目が完全に固体の液体です。粘度はなんと水の1000億倍もあります。例えば、道路のアスファルトなんかはピッチの一種で、実はめっちゃくちゃゆっくりと動いているみたいです。
さて、今からおよそ100年前、オーストラリアの学者がこのピッチのしずくが垂れる様子を観察するという気長な実験をはじめました。記念すべき1滴目が垂れたのは実験開始から9年も経った時のことでした。この長い長い実験は代々の責任者に受け継がれてきましたが、中にはピッチが落下する決定的瞬間を目にすることなくこの世を去った方もいたそうです(悲しいですよね)。この実験は今現在も続いていて、ありがたいことに下のリンク先でLIVE中継を見ることができます。
また、種々の動画サイトで「The Pitch Drop Experiment」と検索するとピッチがゆっくりと落下する様子をまとめた動画を見ることができるでしょう。
ちなみに、一番最近では2014年に9滴目が落下しました。が、その時にちょっとしたアクシデントがありました。ピッチのしずくを受け止めるためのビーカーがほぼいっぱいになり、落下途中の9滴目が先に落ちた8滴目に衝突したんです。ビーカーを取り替えようとした時、台がぐらついて9滴目は自然落下する寸前でちぎれ落ちてしまいました……。今は気を取り直して、10滴目が垂れるのを待っているわけですが、一体いつになることやら?という感じです。大体10年間隔なので、たぶん2024年前後になるのではないでしょうか。
1.ざっくりとした宇宙のドロッ度の算出イメージ
話を戻しまして、まずは宇宙のドロッ度をどのように求めたかをイメージにしてみました。
地球から見ることができる宇宙は全方位で465億光年先までに限られていて、別名「観測可能な宇宙」とも呼ばれます。単純化のため、いま考える宇宙を観測可能な宇宙サイズの円管とし、その管の中を水素原子が水のように流れていると想定しました。
宇宙の粘度はスライドに書いた式で算出します。本来は円管の中を流れる水や油などの流体の流れが穏やかでキレイなのか、渦を巻きながらわちゃわちゃ流れているのかを判定するための式ですが、それを変形して使いました。計算には3つのパラメータが必要なのでそれぞれを調べていきます。
2.3つのパラメータの計算
(1)宇宙の密度 d [kg/m3]
密度は体積当たりの重さです。リアルな宇宙では平均して1立方メートル当たり水素原子が1個あると言われています。水素原子は 6.02×10^23 個集めると重さが 1 g になるので、それを1個当たりの重さに直して1立方メートルで割った数が密度となります。式中では 1000 g = 1 kg としてキログラムに単位換算しました。
数値がめちゃくちゃ小さいことから、考えている宇宙はめちゃくちゃ薄い水素のガスだということが分かりますね。
(2)観測可能な宇宙の内径 D [m]
半径465億光年の円管の内径(直径)はその2倍の930億光年です。式中では1光年= 9.46×10^15 m としてメートルに単位換算しました。天文学的数字ですね。
(3)水素原子の移動速度 V [m/s]
温度というのは原子や分子の運動の激しさで決まります。空気中の分子運動が激しい夏は暑く、ゆっくり動いている冬は寒いというと感覚的に分かりやすいかもしれません。これを宇宙スケールで考えます。宇宙の温度が分かれば水素原子の運動の激しさ(物理の世界で言うところの運動エネルギー)、つまり移動速度も分かってしまいます。科学ってすごいですよね。
宇宙の温度Tはおよそー270.42 ℃(ケルビンでいうと3K)だと分かっているので、水素原子の重さmや定数KB(1.38×10^-23)を水素原子の移動速度Vを導く式に代入すると求められます。実際に計算してみると秒速274メートルという数値がでました。ジャンボジェット機とほぼ同じスピードで飛んでいると思うと速いですねぇ。
3.宇宙のドロッ度はおいくら?
3つのパラメータdDVが出揃ったところで、実際に宇宙の粘度を計算した結果がこちらです。
dDVは掛け合わせると大体400になりました。これをReで割ると宇宙の粘度が分かります。式中のRe(レイノルズ数)は流れのキレイさの度合いを表す数字です。
<超ざっくりとした解説>レイノルズ数:Re
水道から出てくる水の勢いが小さい時には空気が混ざらずにキレイな流れを作りますが、勢いが激しいと空気が混ざって乱れた流れになりますよね。あの乱れ具合を無理やり数値化させたのがレイノルズ数です。Reが1000未満だとキレイな流れ(=科学用語では”層流”)、1000を超えると乱れた流れ(=科学用語では”乱流”)になりやすくなります。ちなみに、層流と乱流が変わる境界のRe数値はありません。どちらとも言えるような領域幅があって、その領域幅のことを過渡(かと)領域と呼びます。
さて、想定した宇宙はとても薄いスカスカな水素ガスだったので水素原子の流れはおそらくキレイな流れ(層流)になると考えられます。仮に、キレイな流れの最大値Re=1000を代入してみると宇宙の粘度は0.4[kg/(m・s)]となります。自分の予想ではもっとさらさらとした流れになると思ってたんですが、これは水の400倍の粘度なので意外と大きなドロッ度だったので驚いています。
今回は現実に起こる様々な物理現象を無視しまくって、本当にざっくりとした値を求めたので実際とは誤差がもっとあるかもしれません。でも、感覚的にどれくらいなのかを知ることができたのでまぁ良しとしましょう ٩( 'ω' )و
【まとめ】ドロッ度の世界はロマンにあふれている
地球上で最強クラスのドロッ度を持つ液体はヤバイということと、仮想宇宙は身近に存在する水よりもドロッ度が高いっぽいということが分かりました。これらのことから、ドロッ度の世界には未知とロマンに満ちあふれていると言えそうです。
最後まで読んでいただいた方、大変ありがとうございました。