嫌いじゃないわ。《登呂博物館》
恐らく薄々、予想がついている人もいるかも知れないが、私はマイナー好きである。
博物館巡りもまだまだメジャーな趣味とは言い難いのだが、これも私の趣味だ。中でも更に全国ネットで名前が知られていない、マイナーな博物館も愛している。
そんな私が今回、行って来たのは静岡県静岡市駿河区にある「登呂博物館」。
ここは弥生時代の遺跡の横に建てられており、隣には地元の美術家である芹沢銈介美術館も並んで建てられている。もちろん、登呂博物館のテーマは登呂遺跡をメインとした、弥生時代の研究成果の展示物である。
そのため、とにかくこの博物館の展示物は男子中高生の好きなものばかり集めた弁当箱の中身のように茶色い。いや、それよりもやや黄色い、黄土色だ。何てったって土器や木製の鋤や鍬、再現された弥生時代の住居とかなんだから、無理もないと言えよう。
もちろん、この博物館のゆるキャラのトロベーだって茶色い。着ているものも貫頭衣なので、ファッショナブルな服からは銀河の果て、と言いたくなるくらいには遠く離れている(因みにイベント時はキュレーターさんたちもこれを着る)。
それでもこの博物館に足を運んでしまうのは、それを凌駕する、企画展の発案力。
初めて心掴まれたのはにっこり笑った埴輪のポスターの企画展だった。そう、笑顔の埴輪にスポットを当て、同じような笑顔の埴輪を集め、これをテーマに企画展を開いたのだ。
なんてエモーショナル!
そこからすっかりここの企画展を追うようになってしまった。小学生の落書きのような、生々しい鉛筆跡が光る研究者の記録ノートを展示したり、地元の有度山や、海とを関連付けたりしていた。それぞれの企画から、登呂遺跡に住んだ人々が、それぞれの角度から、どんな風に生きて来たかがイキイキと活写されるようだった。
トランプのカードゲーム・ポーカーを知っている人は多いだろう。ゲームでは配られる手持ち札を、プレーヤーがコントロールすることはできない。
それで言ったら登呂遺跡の、地味な黄土色の展示物は華やかな色を持たず、荘厳さや迫力も持ち合わせていない。時の流れを超えて来た傷だらけの勇姿があるだけだ。だから人によってはポーカーで言う「2」のカードしか持っていない状態のようにしか見えないかもしれない。(現に休日を利用して博物館に足を運んだらしい親子連れも、幾組かはウォーキングのように流れ作業で展示物の周りを通り過ぎていったー。つまり、展示物に強い魅力を感じなかったのだと思う。)
それでも企画展の発案者はその持ち札で、最高の登呂遺跡の姿をその度ごとに浮き彫りにしてくれる。「この人たち、とんでもない知恵者だなぁ」と私はいつも感心してしまうのだ。ついでに言うならボランティアらしいキュレーターさんたちも、よく詳しい解説をしてくれるので、私の中の登呂博物館の好感度は常にトップレベルだ。
そして散々、黄土色だ、と言ってきた展示物だが、中には黒曜石の鏃(やじり)や、ガラス製のアクセサリーなどの光り物があるので、これがより際立って輝いて見える。
みんなが見向きもしなかった場所から宝物をこっそり見つけた、子どものような気分だ。
大人の私でも、ちょっと嬉しい。
そんなわけで登呂博物館、嫌いじゃないわ。