連鎖 6
【第五章】『和解』
その後加奈の姿は、遅くまで勉強していた美咲のもとにも現れた。
「美咲」
声のする方に振り向いてみると、青白い光に包まれた物体がすうっと姿を現した。
「なに? 何なの一体」
「あたしよ美咲、加奈よ」
美咲がよく目を凝らして見てみると確かにそれは加奈の姿であり、その姿を目にし大変驚いた美咲。
「キャーーーッ、どうして加奈がここにいるのよ、まさかあたしに復讐しに来たの? ごめんなさい、ごめんなさい、もう許して下さいお願いします!」
「落ち着いて美咲、何もしないから」
「ほんとに何もしない?」
「もちろん何もしないわ」
その言葉に美咲はようやくホッとする事が出来た。
「だいいちあたしが美咲の前に現れたの今回が初めてじゃないでしょ! そんなに驚く事ないじゃない」
「確かにそうだけど、前に何度か出て来た時は夢の中だったからさ、実際に目の前に現れるとビックリしちゃって……」
「確かにそうだったかもしれないね、ごめんなさい驚かせちゃって、それより明かり消してくれない? 明るいとこ苦手なの」
「分かったわ、すぐ消すから待ってね」
LED照明のリモコンを探すとそのボタンを押した美咲。
美咲は加奈に対し不思議そうな表情で何故突然この場に現れたのかを尋ねる。
「それより突然何しに来たの?」
「そうだった、美咲にお願いがあって来たの」
「何よお願いって」
「美咲、お願いだからもう絵梨花をいじめるのはやめてあげて」
「またその話? 加奈はどうして自分の事をいじめた相手を許せるの?」
「絵梨花はもう充分過ぎるくらい制裁を受けたわ、あの子家でもおばさんから暴力受けていたの、恐らくあたしがいじめを受けるずっと前からね、あの子表向きは勉強のストレスって言っていたけど、あたしへのいじめの原因はおばさんからの暴力に対するストレスのはけ口でもあったのよ」
思いもしなかった事実に大変驚いた美咲だが、それでも引き下がる事はなかった。
「だからと言って人をいじめて良い事にはならないわ」
「確かにそうね、でもあの子も苦しんでいたのよ、それにね、今日絵梨花ったら自殺しようとしたのよ、幸いあたしがいたから助ける事が出来たけど、もしいなかったらあの子今頃死んでいたわ」
「加奈が助けたの?」
「そうよ、ほんと危なかったわよ」
「どうしてそんな事出来たの? 絵梨花は加奈の事いじめていたのよ、自殺にまで追い込まれて恨んでないの?」
「もう良いのよ、それに恨んでいるとかそう言う以前にあたし達友達だもの」
「だからあたしにも絵梨花をいじめるなって言いたいの?」
「そうよ、元々あたしたち楓と四人友達でしょ、もう許してあげてほしいの、それにいじめられていた本人が言うんだからもう良いじゃない!」
「分かったわ、加奈がそこまで言うならもう二度と絵梨花の事いじめたりなんかしないわ」
ひどく落ち込み反省しきりの美咲。
「でも加奈ってすごい心が広いのね、自分の事をいじめただけでなく、自殺にまで追い込んだ相手をこうやって許せるなんて」
「そんな事ないよ、あたしだって最初はすごく恨んだわ、絵梨花の事も、もちろん美咲達の事もね、でもいろいろ事情があったってわかってくるとそんなのどうでもよくなったの、それに実際自ら命を絶ったのは自分の意志だしね」
「そう、あたしもきちんと謝らなくちゃいけないね、本当にごめんなさい」
「もう良いのよ、過ぎた事だわ、じゃあそろそろあたし行くね」
その言葉とともに加奈はすうっと姿を消していった。
翌日絵梨花が学校に向かい教室に入ると、そこへ美咲がやって来た。
「絵梨花おはよう」
今までさんざんいじめてきた美咲のそんなぎこちない声に、今度はどんな嫌がらせをされるんだろうと身構えてしまう絵梨花。
「大丈夫よ、そんな身構えなくて良いわ」
そんな美咲の言葉に、恐る恐る体の力を抜く絵梨花。
「絵梨花あたしね、もう絵梨花の事いじめるのやめたの」
「ほんとに?」
「ほんとよ、今までごめんなさいね」
「でもどうして突然やめるなんて言い出したの? あたしはいじめが無くなって助かったけど……」
「実はね、夕べあたしの所に加奈が現れたのよ、その時聞いたわ、絵梨花の昨日の出来事、あなたがそこまで追い詰められていたなんて思いもしなかった、また取り返しのつかない事になる所だったのね、晴樹の言った通り加奈の二の舞になる所だったわ」
「そう、美咲の所にも加奈が行ったの、加奈ったら自分は自殺に追い込まれて命を落としてしまったくせに、あたし達の事は助けてくれるのよ、お人好しにも程があるよね」
「そうね、あたし達どうしてあんな良い子をいじめちゃったんだろう?」
「確かにね、詩織が言っていたようにあたし達加奈を自殺に追い込んだ責任を一生背負って生きていかなければいけないのよね」
「そうね、あたし達大変な事をしてしまったんだって事がようやく分かったわ」
「でも今頃気付いても遅いのよね」
その後学校が終わると家に帰ろうとする絵梨花であったが、この日もまた夜母親が帰ってくればまた暴力が待っているかと思うと憂鬱な気分に晒されていた。
それでも仕方なく家に帰る絵梨花であった。
「ただいま」
誰もいない部屋に響き渡る声、しかし暴力に対する恐怖からその声は暗く沈んでおり、この時絵梨花は、母が帰って来るまでの間恐怖で仕方なかった。
その後遂に絵理が帰ってきたが、何故かこの時はいつもと違っていた。
「ただいま絵梨花」
いつもと違う明るい声に驚いた絵梨花だが、それが逆に何があるんだろうと恐怖を覚えていた。
ところがその後に続く思わぬ言葉に絵梨花は拍子抜けしてしまう事になる。
「ママあなたに謝らなくちゃいけないの、今までごめんなさい、もう二度とあなたの事むやみに殴ったりしないから許して」
この時絵梨花は母親の突然の謝罪に驚いていた。
「突然どうしたの?」
「実は夕べあたしの所に加奈ちゃんが来たの、その時夕べあなたが何をしようとしていたか聞いたわ」
そんな母の言葉を聞いた絵梨花は、一体加奈はどこまでお人好しなんだろうと呆れていた。
それとは裏腹にとてもうれしく思えた絵梨花は、加奈に対し心の中でありがとうと感謝の言葉を口にしていた。
「ママの所にも加奈が来たの? ごめんなさいママ、あたし取り返しのつかない事する所だった……」
「良いのよそんな事どうでも、あなたが生きていてくれただけで充分、それを言うならママの方こそ取り返しのつかない事をしてしまうとこだったわ、ほんとにごめんなさいね」
絵梨花に対し頭を下げると、絵理は更に続ける。
「それはそうとあなたがいじめていた相手って加奈ちゃんの事だったのね、どうしてそんな事したの、あなた達友達だったんでしょ?」
「それは……」
「言ってごらんなさい、ママ怒らないから」
「勉強のストレスと日頃のママからの暴力に対するストレスがたまっていて……」
「それで加奈ちゃんをいじめたの?」
こくりと頷く絵梨花。
「それがどうして加奈ちゃんだったの? 他の子だったらいじめても良いとは言わないけど、よりによって加奈ちゃんじゃなくてもよかったんじゃない、加奈ちゃんとは友達だったんでしょ?」
「あたし達の中で加奈が一番おとなしくて当たりやすかったの」
「ただそれだけの理由で?」
「確かにそうね、いじめられた方としてはそれだけの理由でいじめられてはたまらないよね」
「そうね、それも自殺にまで追い込まれているんだから……」
「でもね、最初はちょっと悪戯する程度のつもりだったの、だけどそれが少しずつエスカレートしてだんだんといじめに発展してしまって、それが今度はクラスの女子ほぼ全員にいじめられるようになったの、でもそれを指示したのはあたしなのよ、そうなってしまってはもう歯止めがきかなくなっていた」
後悔から俯き涙を流す絵梨花。
「そうだったの? ママも悪かったのよね、ママがあなたに暴力を振るわなければこんな事にならなかったかもしれないのに、加奈ちゃんに悪い事したわ、何度謝っても謝りきれないわね」
「だけどあたしは加奈の事をいじめてしまったのに、加奈はそんなあたしを助けてくれるなんて、加奈にはほんと頭が上がらないわ」
「そうね、今後あたし達がどう償っていくかが大事なんじゃない?」
つづく
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