【掌編】シュガーレス

掌編です。一人称。

シュガーレス


 落ちた。落ちたんだ。掌から落ちたんだ。震えて、微かな、名前もないものが掌のさ、指の隙間から落ちたんだ。知らないよ、どうでも良いよ。僕の所為じゃない。僕の所為じゃないさ。ただ、僕の指の隙間から落ちただけさ。
 そう、言われていたさ。受け止めなさいって。それはそうだ。そうしなきゃいけないから。でも、僕の手は、それを受け止められなかった。じゃあ誰の所為なんだ。僕は何も知らなかったんだ。本当に、何も知らなかった。
 ああ、そうかい。僕の話じゃないんだね。僕を責めてるわけでもないんだね。じゃあ、何で僕に言うんだ。僕の所為じゃない! ただ、指の隙間から落ちただけだって言うのに。そんなら、向こうの所為だろう。僕の指の隙間から落ちるだけの、小さなものを作るから良くないんだ。だから、僕の所為なんかじゃなくて。
 僕の所為じゃない。
 僕の所為じゃない。
 ……。
 …………。
 僕の所為じゃないんだ。
 なぁ、おい。だから、誰か何とか言ってくれよ。僕の所為じゃないんだろう。だから、僕を慰めてくれよ。偶々、そうだったんだって。偶々なんだって。お前等、なぁお前等! 外側から見てるお前等は、偶々運が良かっただけだ! 僕が、偶々この場所にいるから、こうしてアレコレ言われてるんだ。お前等は、僕を救ってはくれない。ただ、慰めるだけだ。それで、僕はどうしたら良いんだ!
 僕は、どうしたら良いんだ。どうしたら良いんだ。誰も、何も、僕を救ってくれない。ああ、僕はなんて可哀想な人間なんだろう、と思って。見えないものを無視して、僕は甘い物を食べる。甘い物を食べる
 そう、僕は偶々、そういう場所に出くわしただけなのだと、そう思いながら甘い物を食べる。偶々のことで、僕には悪いことなんて一切ない。太っても、お前等の所為だと思いながら。誰も慰めてくれないから、甘い物を食べる。

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