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白揚社だより2019年秋号、完成しました!

まだまだ厳しい残暑が続いていますが、「白揚社だより」は季節先取り、秋号を刊行します。毎日こう暑いと、秋が待ち遠しいですね。秋号は9月発行の新刊『家畜化という進化』から、11月の新刊くらいまで挟み込む予定です。

このnoteでは、新刊の配本より一足先に「白揚社だより」のおもなコンテンツを公開していきますが、ぜひ本屋さんでも、現物をご確認ください!

表紙を飾ったのは『サイボーグ化する動物たち』。リモコン操縦できるラット、緑色に発光するネコなど、一瞬「えっ」と耳を疑ってしまうような改造動物が登場しますが、すべて実話。怖いもの見たさでSFのような研究の現場をめぐるうちに、生命倫理へと分け入っていく深い一冊です。人間はどこまで動物を変えてもいいのか? そんなことダメ? じゃあ、家畜はどうなの? バイオ技術を使うのがダメなのか? それはどうして? 極端な例ばかりだからこそ、いろいろと考えさせられます。


▼「白揚社だよりvol.2」の表紙。秋号らしくロゴは「栗の渋皮色」 

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今回の注目書◇匂いで世界を知る喜びを呼び覚ます『犬であるとはどういうことか』

◆ポピュラーサイエンス書研究家の鈴木裕也さんが注目する一冊を紹介


『犬であるとはどういうことか』アレクサンドラ・ホロウィッツ著 竹内和世訳 四六判・2500円+税

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 飼い主の帰宅時間になると玄関で〝お迎え〟をしてくれる愛犬。彼らには予知能力があるわけではないし、帰宅途上の飼い主の匂いを玄関越しに感知しているわけでもない。ではなぜ?犬の認知行動学の権威である著者は、この謎に答えを発見した。犬は嗅覚で帰宅時間を計っていたのだ。つまり、飼い主が外出した直後は、部屋には飼い主の匂いが残っている。だがその匂いは時間と共に薄まっていく。犬は嗅覚でその濃度を感じ取り、このくらい匂いが薄まったころ飼い主が帰ってくると学んでいた。それが証拠に、飼い主が外出して数時間後に、飼い主の匂いがたっぷり染みついたTシャツを部屋に持ち込むと、帰宅時間が来ても犬はカウチで眠りこけていた。Tシャツのせいでいつもより飼い主の匂いが濃くなったため、まだ帰宅時間ではないと思い込んでしまったのだ。

軽んじられやすい「嗅覚」を取り戻す

 そんな微妙な匂いの違いを犬が嗅ぎ分けるのは当然かもしれない。何しろ、嗅細胞の数が桁違いに多い。人間の600万に対し、犬は2億~10億。匂いを嗅ぐことに特化した嗅上皮のサイズも、平面に広げたら体を包み込んでしまうほどの面積になる。人間のそれはホクロを覆い隠す程度しかないというのに……。

 犬はこのように匂いで世界を認識する。そんな犬を理解するために、著者は匂いで世界を知ることがどういうことか、様々な方法で探り始める。飼い犬と一緒に四つん這いになり歩道の匂いを嗅ぐ、匂いを発見しながらニューヨークの街を歩く「スメルスケープツアー」を体験する、大学の嗅覚実験室の被検者として100種類の匂いを嗅ぎ分ける過酷な実験にも参加する。これらを通じて著者が次第に匂いを嗅ぐコツをつかみ始めていく様子は実に読みごたえがある。特に、匂い自体は感じられるのに、それを表現する言葉が見つけられずに苦労していた段階を抜け出すあたりは感動的でもある。

 著者はさらに、空港などで麻薬や爆発物などを発見する検知犬の訓練現場を取材し、がん細胞の匂いを嗅ぎ分ける仕事犬やトリュフを探し出すトリュフ犬の仕事現場にも同行する。そこで働く犬たちが嬉々として匂いを求める姿を見た著者は、果たしてペットとして愛されている犬たちは幸せなのかという問題に気づくことになる。愛犬たちはその優秀な鼻で世界とかかわる機会を奪われているのではないか。

 この〝気づき〟は実は犬だけの問題ではない。われわれ人間も同じだ。長年、匂いにまみれて生活してきた著者は、「世界は匂う」と言う。知覚の次元が広がったとも。だが今、人々は消臭剤で匂いを消し、芳香剤などの人工的な匂いで身の回りを満たす。これは本来の人間が持っていた世界を認識する方法を捨てる行為に等しい。

 本書を読み終わった私は今、散歩の時間が楽しくなった。著者に倣ってミニ・スメルスケープを実行しているからだ。感覚が研ぎ澄まされていく感じがとてもよい。軽んじていた嗅覚の世界にぜひ一歩を踏み入れてみてはいかがだろうか?(鈴木裕也・科学読み物研究家)

『犬であるとはどういうことか』紹介ページ

立ち読みページ(PDF)


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白揚社の本棚◇『7つの人類化石の物語』

◆マニアックになりがちな白揚社の本たち。その読みどころをカンタンに紹介


『7つの人類化石の物語』リディア・パイン著 藤原多伽夫訳 四六判・2700円+税

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「ついに見つけたぞ!」 アフリカの発掘現場で世紀の大発見がなされた夜、キャンプで流れていたビートルズの名曲〈ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ〉にちなんだ名前がつけられたとき、世界で最も有名な人類祖先の化石「ルーシー」が誕生した――。

 猿人や原人の化石は数あれど、ニックネームで呼ばれるのはごくわずか。科学界を超えてカルチャーアイコンになる化石はいったい何が違うのでしょうか? 『7つの人類化石の物語』に登場するのは、映画〈ロード・オブ・ザ・リング〉に出てくるホビットみたいに小柄なフローレス原人「フロー」、作家のコナン・ドイルが捏造に加担したとも疑われた悪名高い偽造化石「ピルトダウン人」など、古人類界のセレブ化石ばかり。化石発見をめぐる熱い人間ドラマと人類進化の悠久の歴史が絡み合う、異色の人類学ノンフィクションをお楽しみください。

『7つの人類化石の物語』紹介ページ

立ち読みページ(PDF)


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