求人広告のボディコピー vol.2

求人広告のコピーライターに向けた技術的な話シリーズ、第2回目は前回につづきボディコピーの書き方について、です。

前回は求人広告におけるボディコピーの考え方やメリットとベネフィットの違い、精読率の高さにあぐらをかかない技術、といったお話でした。

今回はもう少し具体的なメソッドというか、お作法について紹介してみようと思います。

こないだも書いたと思いますが求人広告のボディコピーはだいたい500文字前後が一般的です。もちろん媒体やプランによって大きく変わりますが、短すぎても伝わりきらず、長すぎても冗漫になります。過去の経験から500文字で一本作るスキルがあれば、削ることも伸ばすこともたやすくできるはずなので、一旦それぐらいをイメージしてみてください。

いきなり書きはじめない

500文字ぐらいだと文章を書くことが好きな人だといきなり書きはじめてしまうことがあります。また、能力によってはそれで大丈夫だったりします。しかし、どう考えても自分は凡庸なライターである、という自覚をお持ちであれば、ぜひ書く前にプロットを立てる習慣をつけたいものです。

プロットとは文章の設計図のこと。ぼくはよく地図と言ってました。その昔、東急沿線新聞のコラムを連載していたときは約1500文字ぐらい。その時に当時のボスからキツくプロットについて叩きこまれました。

いちばんシンプルなのは起承転結ですね。起で書き出しで言う事、承でそれを受けての展開、転ではクライマックス、そして結で締めると。これをそれぞれ箇条書きで並べてから本文の作成に入ると迷いがなく、ブレもない。遠回りのようですが実は最短ルートを辿れるのです。

一気に書き上げてから削る

500文字という上限を決めたとしても、最初は文字数をあまり意識しなくていいです。とにかく、プロットに沿って求職者への手紙を書いていく。ぼくは個人的には文章は音楽と似ているものだと思っていて、いわゆるグルーヴというものを大切にしています。

その、ノリのようなものを損なわないためにも、まずは一気に書いてしまいましょう。書き上げたあとから削ればいいのです。

文章にリズムが生まれ、物語にテンポがもたらされると、言葉ひとつ一つが躍動しはじめます。そうなればしめたもの。あっというまに600文字から800文字ぐらいに到達します。書き終えた直後は頭の中がホットな状態になっているはずなので、一度クールダウンさせましょう。

それから、もう一度パソコンなり原稿用紙に向かう。頭から読み返して、いらないところ、よけいな言葉、無駄な装飾を削っていく。

これはぼくだけかもしれないのですが、あらためて読み返すとびっくりするぐらい同じことを言っている箇所が見つかります。そういうのを削って削って、有効な言葉だけを残していく作業は本当に楽しいです。

声に出して読み返す

よし、これだ。これでバッチリだ。と、コピーが完成したら原稿をプリントアウトしましょう。おそらくですがキャッチコピーらしきものも出来ていると思いますので、キャッチを大きめのポイントで、そしてボディコピーは11ポイントぐらいで印刷します。

もしそこが自宅なら。そして周囲に誰もいなくて、なおかつ深夜や早朝でないのなら。間違いなくやったほうがいいのが音読です。声に出して読んでみましょう。

音読のいいところは、読みやすいか読みにくいかで文章の良し悪しを判断できること。妙に冗漫でもたる文章。変なところで読点が入り、つまってしまうセンテンス。書いておきながら難読な漢字。展開が急過ぎて理解が追いつかないなど、そのボディコピーの弱点があぶり出されるのです。

もし、オフィスで、あるいは家族がいるので、声に出して原稿を読むのはちょっと…という場合は、脳内で読み上げるようにしてください。文字を読むのではなく、読み上げる。テンポを持って、ナレーション原稿のように。

そうそう、ぼくはいつも良いボディコピーは良いナレーション原稿というのが持論でした。ついでにいうと、脳内ナレーターにはお気に入りの声の持ち主を勝手に起用。ぼくの場合は森本レオさん、久米明さん、芥川隆行さん、大滝秀治さんあたりが常連として活躍してくださいました。

自分のコピーを自分の好きなナレーターに読んでもらう。もちろん架空であり、単なる妄想なんですけど、これもまた楽しい作業でした。

(できれば)ひと晩寝かせる

求人広告クリエイティブの宿命というかアキレス腱ともいえるのが納期の短さです。そりゃそうですよ構想何十年、総製作費数億円、満を持して世に問う求人広告なんてないわけですから。

それどころか多くの場合、求人広告の制作費は掲載費にインクルードされてしまいます。ゆえにクライアントからすればタダ同然。これがキツイし、求人広告クリエイティブが単体でビジネスとして成り立ちにくい背景でもあります。

と、なると朝出して夕方スッキリ、みたいなクリーニング良いものだけは白洋舎を彷彿とさせる短納期もやむなし、という感覚になりがち。そんなに時間をかけていられないんですね。もうどんどん書いて、どんどん確認に回して、フィックスした原稿からどんどん入稿していかないと。

ぼくも現役のとき、朝9時に打ち合わせした営業が会社を出たあと、14時に戻ってくるまでに原稿を完成させておく、みたいなエキセントリックな仕事を楽しんでいました。

ただし、これはあんまり良くない。本来ならきちんとひと晩寝かせるべきです。よんどころない事情があるときは仕方がないけれど、そうでなければ24時間はもらって、書いた翌朝に読み返す。

第一回目でも求人広告のボディコピーは手紙である、と書きました。手紙である以上、みなさんも夜書いたラブレターを朝読み返して赤面のあまりボヤ騒ぎを起こし消防車を呼んだ事案、思い当たる節あるでしょう。

なので、できる限りひと晩寝かせて最終チェックをする。そして大切なのはどんなに自分がいいと思って書いても翌朝読むといまいちだったりする。そのときに勇気を持って書き直すことです。

もちろん原稿提出までの短い時間で一本作り変えるスキルが必要なのは言うまでもありません。ただ、そこに至るまでに伝えたいことや企業への理解、職種への知識などが十分蓄積されているはず。だとしたら、実はさほど時間をかけずに修正することができます。

ぼくも過去に少なく見積もっても5~6回は提出当日朝のセルフ全訂、というヤツをやりました。そして、いつもまるごと書き換えて良かった…と思えることばかりでした。

いちばんよくないのは自分で書いたボディコピーの品質を自分で担保しないことだと思うのです。


と、いうことで、冒頭で具体的に、と言いつつも、読み返してみるとやっぱり抽象的といいますか、考え方やスタンスの話が中心になってしまいました。とても反省しています。

ただ、前回と今回で書いた内容はそんなに大きく間違っていないと思いますし、もしかしたら求人広告以外の文章を書く際にも少しは役に立つかもしれない、と思っています。

全体を通じてお伝えしたいのは、どんな工程も「楽しむこと」を忘れない、ということです。楽しけりゃそれでいいのか、と言われることもあるけれど、楽しけりゃそれでいいのです。

次回はクリエイティブの花形、キャッチコピーについてお話します。

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