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小布施にて
あるクライアントに呼ばれて、12月最初の月曜日に長野県の小布施を訪ねた。
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小布施は長野駅から電車で30分ほど北に向かったところにある。自宅から263キロ。クルマで3時間51分かかる。地図で見るとほとんど新潟に近いんじゃないかと思える。
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56歳にして人生初の北陸新幹線。かがやき、という聞いたことのない新幹線である。東京駅を出ると上野、大宮の次がいきなり長野だ。いくらなんでも端折り過ぎではないだろうか。
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18で上京してから東海道新幹線にはかなりの回数乗ってきた。なので新幹線といえば「青」のイメージしかない。しかし北陸新幹線は「緑」である。それだけで旅情が掻き立てられない。通勤の延長線上に感じてしまう。
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大宮までは見覚えのある景色だったが、間もなく車窓の向こうは平らな世界に変わる。軽井沢プリンススキー場では人工雪でスキーを楽しんでいる人たちがいた。月曜日の午前中にも関わらず結構なことだ。
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東京を出て1時間半足らずで長野駅に着いた。完全に通勤圏である。クライアントの某メディア企業に「軽井沢から通勤してるよ」という人がいて驚いたのだが、これなら納得。週3ぐらいなら全然いけると思った。
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長野電鉄はいろんな鉄道の払い下げ車両を利用しており往路は東京メトロだった。DX化の一環として導入された券売機が完全な初見殺しで外国人観光客が長蛇の列を作っていた。「ガッデム!」「マイガッ!」何人かは乗り遅れたと思う。
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小布施駅に着いた。電車を降りた瞬間あまりの空気の美味しさに深呼吸を繰り返した。はるか彼方に見えるのは何山なのか。観光目的ではないにせよ、もう少し調べてくればよかったと後悔。
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月曜日の12時半、こんな片田舎の駅にしては乗降客がいるなと思った。野晒しのホームは故郷の名鉄犬山線『中小田井』駅を思い起こさせてくれる。僕の幼い頃の駅はみんなこんな感じだった。今ではどこもかしこもコンクリートの高架だ。
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ホームの脇には「駅なか商店」があった。アトレみたいなものか。駅員が煎餅の缶に切符を集める。僕が切符を見失ってあたふたしていると「大丈夫ですよ、経験上必ずあります」と笑顔で経験談を披露してくれた。
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クライアントの車で岩松院へ。葛飾北斎の八方睨み鳳凰図を案内してもらう。車を降りようにもドアが開かない。チャイルドロックがかかっていた。後部座席に閉じ込められたのは高3の時のパトカー以来だ。
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顧客に呼ばれて地方を訪れる。気分は金田一耕助である。金田一はいろんな俳優が演じているが、好きなのは圧倒的に石坂浩二である。次点は古谷一行。渥美清はどうにも寅さんのイメージが強すぎて圏外。
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考えてみれば僕の仕事も私立探偵みたいなところがある。お困りごとを抱えたクライアントのために日本中どこへでも赴き、課題を聞き、解決方法を考えて提案する。ペンネームを金田一博通にしようか。
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木造の建物でたっぷり6時間ほど話を伺い、初回訪問は終了。タクシーで小布施駅へ。息が白い。星が煌めいている。下り電車がホームを出る。日本はまだ大丈夫なんじゃないか。
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あたりは真っ暗、というよりも漆黒の闇だ。心の中で(シッコクシッコク!シッコクシッコク!)とダイナマイト四国のコールを呟く。長野電鉄湯田中行きは女子高生やOLがたくさん乗っていた。
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東京の電車の乗降でいつも思うのが「降りる人が降りてから乗れよな」ということだ。渋谷駅や新宿駅が特にひどい。どうしてみんなたったの2、3秒が待てないのだろうか。小布施駅でもそうなのだろうか。
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それにしても夜の小布施駅は風情がある。平屋建ての駅舎には観光案内をする「小布施コンシェルジュ」が常駐しているらしいが、この日は見当たらなかった。もう帰ったのかもしれない。
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ビールロング缶3本と幕の内弁当を買って新幹線のホームに立つ。帰路もかがやきだった。つまり22時過ぎには東京に戻っていることになる。ふだんの帰宅時間とさほど変わらない。
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それにしても大宮駅はどうしてあんなに高いところにホームがあるのか。眼下に広がる在来線を眺めながらタワマンの高層階にいる気分を味わえる。高所恐怖症にとってはちょっとした関所。
東京に戻っていちばん最初に感じたのは空気のことだった。あんなに美味しい空気が吸えるのなら小布施で暮らすのもいいなと思った。あの美味しい空気をわが家の愛犬(フレンチブルドッグ・オス・11歳)にも吸わせてあげたい。