小噺「みんなおかしくなっちゃった」
「みんなおかしくなっちゃった」
あるおじさんはそう言いました。
「みんなどうおかしくなっちゃったの?」
僕はそうたずねます。
おじさんはこう答えました
「みんな、ほかのひとのことを見なくなっちゃった。いっぱいごはんをもらっても、いっぱいおかねをもらっても、ぜんぶひとりじめするようになっちゃった」
僕はまたたずねます。
「どうしてじぶんのことしか見なくなっちゃったの?」
おじさんは答えます。
「そうしたほうが良くなってしまったからさ」
僕はまたまたたずねます。
「どうすればみんなほかのひとのことを見るようになるのかな?」
おじさんはくびをかしげて言いました。
「うーん、わかんないや」
「みんなおかしくなっちゃった」
あるおねえさんはそう言いました。
「みんなどうおかしくなっちゃったの?」
僕はそうたずねます。
おねえさんはこう答えました、
「みんな、うそをつくようになっちゃった。口ではしょうじきがいいといっておきながら、じぶんのために、じぶんたちのために、うそをつきつづけるようになっちゃった」
僕はまたたずねます。
「どうしてみんなうそをつくようになっちゃったの?」
おねえさんは答えます。
「そうしたほうが良くなってしまったからかしら」
僕はまたまたたずねます。
「どうすればみんなしょうじきになるのかな?」
おねえさんはくびをかしげて言いました。
「うーん、わかんないわ」
「みんなおかしくなっちゃった」
あるおばあさんはそう言いました。
「みんなどうおかしくなっちゃったの?」
僕はそうたずねます。
おばあさんはこう答えました。
「みんな、じぶんでものをかんがえなくなっちゃった。ほかのひとのいうことをきいていればいいっておもうようになっちゃった。それがほんとうに良いことなのか、ほんとうはどうするべきか、かんがえなくなっちゃった」
僕はまたたずねます。
「どうしてじぶんでものをかんがえなくなっちゃったの?」
おばあさんは答えます。
「そうしたほうが良くなってしまったからだよ」
僕はまたまたたずねます。
「どうすればみんなじぶんでものをかんがえるようになるのかな?」
おばあさんはくびをかしげて言いました。
「うーん、わかんないねぇ」
「みんなおかしくなっちゃった」
「みんなおかしくなっちゃった」
「みんなおかしくなっちゃった」
「みんなおかしくなっちゃった」
「みんなおかしくなっちゃった」
みんながみんなそう言います。
けれど、その中にはだれひとりとして、
どうすればいいのか知っている人はいませんでした。
「みんなおかしくなっちゃった」
「みんなおかしくなっちゃった」
「みんなおかしくなっちゃった」
僕はこう言いました。
「みんなきっと、おかしいままで暮らすんだろうな」