【詩】猫の噂
猫の噂
春雨のふるは涙かさくら花
ちるを
をしまぬ人しなければ 黒主
細い路地に入ってたぶん
ふと気を許したのかもしれない
その猫は笑ったのである
ちょうどそこに廃棄されたカーブミラーが放置されていたのが
いけなかった
どうもその猫は当局に拉致されたみたいだ
その前夜は春雨だった
ある子供が猫に踊りを教えていたという
密告もあったようだ
夜があけると
春雨は朝靄となり
その子供を連れて沖のほうへ去っていった
突堤には物的証拠として
からすみのようになった猫の心臓が落ちていたのであるが
もちろん人びとの話題にのぼったのは
そのことではなく
ひと夜のうちに散ってしまったこの町自慢のさくら花のことである
もっとも最近は物騒で
ここだけの話だが
猫が密かに二足歩行の練習を始めたという
噂を聞いたことがある
五年ほど前には
化粧したニホンザルのオスが島の群れから脱走し
新宿で逮捕された
ということもあったから
その程度のことは別段驚くにあたいすることではない
もちろんこれは生物全般にみられる
自発的退化なのであるが
君が僕を暗殺した前夜のように
春雨がはでに花を散らせていれば
さほど深刻な事態にならないので
報道の必要はないらしい
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