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【詩】傘がない

【詩】傘がない

 傘がない

ガザの学校にミサイルがぶちこまれる理由を
「ハマスのアジトだからだ」とその国の軍事指令部が述べている
記事には何の批判もなく、客観かつ中立の空虚な言葉が並ぶ 

定期購読の朝刊もたまにはいいことをする
お前の中で 幸福に閉じられていた蓋が開き
お前はある何かに気づいたようだった

傘はどこにもないのだ 

そして この日のメインの記事はなんだったのかといえば 
オリンピックでどこかの日本人が金メダル取ったという話だ
どうやら悲願だったらしい 記事は まるでわがことのように歓喜し
「国民」とやらに感動を押し付ける

いくら雨が降っても、傘がないわけである

ガザの空爆の記事は 5面の左中段に
中庸の仮面をつけ、お行儀よく縮こまっている まるでその日の
「歓喜」と「感動」の邪魔になってはならぬかのように

ああ 傘がない そのかわりに
お前の封印していた蓋が開き
お前の何かが目覚め、俺はもう眠れなくなる

例えば、お前の家にテロリストがいるからといって
子供も家畜も含め皆殺しにしていいのか?
子供でもわかる人間の常識を国際社会や新聞メディアは持たないらしい

羅針盤を失った世界――そこには、もう傘は見当たらない

長崎の原爆犠牲者追悼集会に
アメリカをはじめG7の大使は出席をボイコットした 
理由はイスラエルの出席を長崎が拒んだからだという どうやら
日本政府は長崎の側にイスラエルを参加させるよう説得を試みたらしい

1945年の8月
アメリカは広島と長崎に原爆を投下した
戦争の早期終結のためには
街ごと殲滅してもよかったらしい
その年の末までの死者数は
広島市民約14万人
長崎市民約7万4千人 である

ああ あれからずっと傘がないのだ それでまた
蓋が開いてお前という俺は眠れなくなるのだ





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