こないだのつまみ #12 卯の花
「居酒屋にあるとつい頼んでしまうもの」
そんなつまみ、ないだろうか。
私は卯の花、つまりはおからが品書きにあるとほぼ毎回頼んでしまう。なんで好きなのか、自分でもよく分からない。豆腐を作るときに出る、大豆のしぼりかすで作られる卯の花。「これぞ酒のつまみ!」というようなコクや塩気、珍味感に富むようなものではない。そうなんだけれども、私は卯の花で飲むのが好きなのだ。
ある夏の日、神戸を旅した。
関西の友人がすすめてくれた灘区水道筋エリアの居酒屋へ向かう。『高田屋』と染め抜かれた白く大きなのれんをくぐってカウンターへ。小鉢が並んだ冷蔵ケースの前に通され「一等席だ」とうれしくなる。枝豆や湯引き鱧なんかが並ぶケース内を眺めて、やっぱり一番最初に頼みたくなるのは卯の花なのだった。
『高田屋』さん(正確には『高田屋旭店一色屋』という長い名前)の卯の花は、しっとりし過ぎず、ぱさつきは微塵も感じさせず、炒り具合がなんともほどよい。やさしい味つけだがきちんとアテになる塩梅で、ひとり「お見事」なんてつぶやきつつビールを飲んだ。
卯の花はふにゃりとした中に葱やにんじん、椎茸などの食感がいろいろと豊かに感じられるのもたのしい。
他にも私の「毎度つい頼んでしまう」アテ連、マカロニサラダと南蛮漬けを頼んでこれ以上ない幸甚状態で『高田屋』時間を過ごしたこと、懐かしく思い出す。「この店が大好きでしょうがないんだな、わざわざ目当てに訪ねてるんだな」ということが一発で分かるひとたちで満ちている、いい居酒屋さんだった。
向かいに『灘温泉』という、とても居心地のいい天然温泉の銭湯もある。もし水道筋エリアを訪ねたなら、ここでひとっ風呂浴びてからぜひ『髙田屋』で喉をうるおしてほしい。