amazonの川下は、今どこまで?
田口久美子・著『増補 書店不屈宣言 (わたしたちはへこたれない)』(ちくま文庫 / 2017)を読み終えた。エネルギーに満ち溢れた内容であった。
現役の書店員から見た、書店や出版業界、本を取り巻くさまざまな問題が赤裸々に語られる本書。現場で働くいち書店員や、大型書店がどう頑張っても「紙の本」の売上や存続につながる施策は、あるところで限界を迎えてしまう。平静を保っているように見えても、コップの縁から今にもこぼれ落ちそうになるのを、表面張力でなんとか堪えている状況に過ぎないのだなと、ひしひしと感じる。
出版業界全体、書店業界全体、地域、国が一丸となって「日本人による、日本人のための、日本語の書籍」の維持・存続と発展をほんとうに真剣に考えなくてはならない。
書店で、amazonをポチッと
そういうお客様がいる、と書かれていた。
amazonで購入した方が、安く買えるから。他のものも一緒に買うことができるから。送料無料で、即日配送。いま書店にいるのに?目の前に欲しい本があるのに?と疑問に思うけれど、実際そういう人がいるのだという。
「amazonに書籍の器が奪われつつある」という内容の文章を読んで、ひとつ思い出したことがある。
本書が出版されたのと同じ、2017年頃のことだ。
私は、同年代の皆がamazonで便利なショッピングライフを謳歌しているのを横目で見ながら、まだネットショッピングを利用したことがなかった。
とりわけ本は、書店で棚を行ったり来たりして舐め回すように見るのが楽しかったし、求めている本がなくても探している時間も含めて好きだったりした。
ある日、明確に欲しい本があり書店を訪れたが、在庫がなかった。少し古い本だったし、知名度もあるわけではなかったから仕方がないと思い、カウンターで取り寄せを頼むことに。しかし、取次にも出版社にも在庫があるかの確認が取れず、1~2週間ほど時間がかかるという返答が。
特に急いでいたわけではなかったので、それでいいやと思っていたところ、店員から予想外の一言が発された。
「amazonにはあるっぽいので、そこから取り寄せましょうか?」
以後の詳細なやりとりは記憶していないが、おそらく「急いでいないから、版元から取り寄せてください」と頼んだのだろう。
書店にも取次にも、出版社にも在庫があるか不明なのに、amazonでは確保されている。目の前の書店員が発した言葉に、その事実に、眩暈がするようだった。でもその時は、この眩暈の理由がわからなかった。自分が何にショックを受けているのか、言語化できなかった。
精一杯の譲歩というか、善意というか。本を求めていた私を慮っての発言だったのだろうけれど、田口氏の『書店不屈宣言』を読んで、あの書店員の言葉はやはり「いただけない」ものだったのだなと確信めいたものを感じた。
「紙の本」を売る者として、本を愛する者の最後の砦ともいえる書店員としてのプライドというか、そこに立って働いている理由とか、そういうものの一切を置いてきたような発言だったのだなと。
これからの話をしよう
いま、書店はどこにいるのだろう。
amazonの大波は、溺れて身動きができないくらいの深さまでやってきているだろうか。表面上ではわからないSOSは、発されているだろうか。
田口氏や、彼女と近しい人たち、業界の人たちだけがいくら懸念したところで、この問題が解決されるわけではない。末端の書店員はもちろん、本を愛する私たち一人一人が「何かできないか」と真剣に考えて、行動に移して、ようやくひとつ土嚢を作ることができる。未来の、本を愛する人たちに向けた時限爆弾を、タイムカプセルを作ることができる。
考え方が古いだろうか。書店とネットに大差はないだろうか。紙と電子に、大差はないだろうか。
切実に、早急に考えていかなければいけない問題だ。
気になる方は、ぜひ読んでみてください。
稲泉連・著『「本をつくる」という仕事』(ちくま文庫 / 2020)も、作家や装丁、印刷、製本などなど「紙の本」づくりに携わる熱い人々の仕事が窺えて、面白く勉強になるのでオススメです。