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エッセイ ひまつぶしの時間

若い頃の僕は映画をよく見た。
父親の影響だろう。

僕の父親は映画評論家になりたかったと
僕に話してくれたことがある。

当時は今のように手軽に映画が観れる
環境ではない。

パソコンなどまだ出回ってなく、
もちろんスマホなど影も形もない。
DVDの前身のビデオテープすらない。

ではどうやって映画を観たかというと、
映画館にいくか、テレビのロードショー
などで観る以外になかった。

当時はそれぞれのテレビ局で映画枠があって、
解説者がそれぞれいた。
日曜洋画劇場は淀川長治、水曜ロードショ
ーは水野晴朗、月曜ロードショーは荻昌弘
である。
僕は荻昌弘が好きだった。

3人のうち、淀川長治と水野晴郎は番組の
最後に決めセリフをもっていたが、荻昌弘
は特になかったと思う。
(淀川長治はサヨナラを3回連呼するやつ
ですね)

やがてビデオが世に出回り始めて、
レンタルビデオが始まると、映画が手軽に
見れるようになり、
テレビの映画枠も少なくなっていったのは、
仕方ないところなのだろう。

この3人は映画の名解説者として、当時は
有名だったけれど、もちろん他にも映画
評論家はいて、
小森のおばちゃまや、おすぎなども、
ワイドショーなどの映画解説に登場していた。

さて、
やっと小森のおばちゃまを登場させること
ができた。
僕と同年代くらいの方しか知らないかも
しれない。

「おばちゃまね、、」の語り口で映画を
解説するのだが、その人懐っこさが
とてもいいのだ。
選ぶ映画もセンスがよくて、フランス映画
などをよく紹介していた気がする。

その中の1本に「キリング・タイム」と
いう映画がある。フランス映画である。
もちろん原題ではない。

残念ながらこの映画はDVD化されていない。
配信でも観れないと思う。そのくらい
マイナーな映画だ。

僕は当時買ったビデオテープを大事に
もっている。
ときどきこれも大事に使っているビデオ
デッキで、この映画を観る。
観ていてとても心地いいのだ。

主人公の酔いどれの刑事シモンと一緒に、
お酒を飲みながら観るのがお薦めである。
僕は今はお酒が飲めないが、若い頃は
飲みながら観たものだ。

観て欲しいけれど、観る手段がない。
この感じは昔と同じで、
なぜか少しうれしくもある。

この映画は映画評論家の小森和子推薦作品となっていて、
1987年バレンシア映画祭グランプリ受賞作品でもある。

最後に小森和子の解説を載せる。

「誰しも人生に、自分でもわかりがたい
アンニュイ感を感じる時があるんじゃない
かしら。
でも、それを通りぬけるからこそ、
また生きがいや、生きる喜びも
感じられるようになるのじゃないの?
この「キリング・タイム」の主人公、
酔いどれのシモン刑事は、
まさに生きることに疲れきったような
人生。
その途上でめぐり逢うのは愛人のもとに
去った妻、どうしようもない混乱の時に
フトめぐり逢う風変わりな娘
ヴィオレッタ。
彼女にひかれながら奇妙な事件に巻き
込まれてゆく・・・すべてが現実か、
幻想かわからんようなシモンの
「キリング・タイム」
つまり”ひまつぶし”のひとときは、
わたしたちの人生のアンニュイ感を、
それなりに楽しませてくれる・・・
まぼろしの映画。
すんなりそのムードにひきこまれれば、
ホントにこころよい”キリング・
タイム”・・・そこにまた、
”生きるイリュージョン”も自然と
湧く・・・だからこそ映画祭でも受賞作に
なったんではないかしら。」

映画「キリング・タイム」小森和子解説より


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