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エッセイ 馬の目

*はじめに
子供の頃の思い出です。

YouTubeで宇多田ヒカルの「真夏の通り雨」
の動画を見ていた。
見ていると馬に乗る女性が出てくる。

馬に乗るシーンのあと、厩舎が現れ、
馬房から鼻だけ出している馬の鼻を
女性が撫で、厩舎の中を一人歩く。

このシーンが印象的で、
眺めながら、子供の頃の記憶が浮かぶ。

実家から少し離れた場所に厩舎があった。
小学生の頃にその厩舎に一人でよく行った。
その場所をどうして知ったか覚えていない。

小学生だった僕はその頃、自転車を買って
もらった。この頃、スーパーカーという
ものが流行っていて、
スーパーカー消しゴムや、ポテトチップスの
お菓子にスーパーカーのカードがおまけで
付いていて、それを集めるのが一種の
ステータスのようになっていた。

そんな流行りの中、自転車もスーパーカーに
模したものが流行り、ボタンを押すと、
ヘッドライトが上に飛び出したりした。
ギアのチェンジレバーも、シフトレバーの
ようでかっこよい。
子供のハートをわしづかみである。

その自転車に乗ってあちこち走り回るのが、
嬉しくて仕方ないころだったので、
その場所を見つけたのかもしれない。

最初はそれが何の建物なのか、
わからなかったと思う。

子供の僕には見上げるような大きな建物で、
入口が開いて、出口まで見通す事ができた。

でも、何がいるのかわからない。
入口から見ると馬房はまったく見えない。

誰もいないのを確認して中に入る。
すると直ぐに馬がいた。

初めて近くで見た馬は、
見上げるほど大きくて、
びっくりしたのを覚えている。

そして黒くて大きな丸い目で、
僕のことを真っ直ぐ見つめる。

やさしいその目は、
僕を少し安心させた。

厩舎の中を歩いていくと、
左右に馬がいて、

僕という闖入者に騒ぐことなく、
薄暗い厩舎の中、静かに立って、
こちらを見ていた。

僕は少し怖くなり、
出口に向かって走り出す。

厩舎を出ると外は青空で、
僕をホッと安心させた。

その後も、
何度かその厩舎に通ったけれど、
いつも誰もいなくて、
出迎える馬たちは
いつも同じように僕を迎えてくれた。

ある日、
厩舎にいったら馬たちがいなくて、
どこに行ったのかと探してみたら、
牧場の中を走っていた。

とても楽しそうで、
自由にタテガミを揺らしていた。

一頭だけ僕の方に近づいてきて、
立ち止まり僕の方を眺める。

その目は厩舎で見たときと同じ、
黒くて丸いやさしい目だった。

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