エッセイ 冬の思い出
寒さが戻る。
北風に煽れる。
暖かな陽気に油断してると、
懲らしめるように寒くなる。
慌ててストーブの火をつけて、
唸る北風に首をすくめる。
轟轟と唸る風を聞くと、
田舎の冬を思い出す。
山からの吹きおろしに晒されて、
すきま風の入る家は、
布団の外は凍ってしまうくらい寒いので、
身動きが出来ないくらい
何枚も重い綿布団をかけて寝た。
僕が狭い場所が苦手なのも、
このときの経験からだろうか。
冬の夕食は鍋物ばかりで、
鍋といっても
いわゆる『水炊き』だ。
白菜や大根や冬の野菜と
当時はまだ安かったタラの
白身を鍋に入れて水で煮る。
鍋に味付けなどはなく、
醤油と酢のつけ汁に
つけて食べた。
これが当たり前の食卓だった。
でも僕には楽しい食卓だった。