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エッセイ 古着の記憶

服には、思い出が、しみつく。

着古した子供の服を見ると、
それを着てた子供の姿が、
ありありと浮かぶ。

自分の服は割と簡単に捨てるけど、
子供の服は、ためらう。

僕の母もそうだった。

いつまでも、捨てない。
なぜなのか、わからなかった。

いま、鮮明によみがえる
子供のころの記憶。

母がミシンで、
シャツを作っている。

足踏み式の昔のミシン。

踏板を踏み込むと、
ウィーンウィーンと
ミシンの滑車が回転する。
カシャカシャと、針が上下する。

生地をミシンで縫いながら、
母は、ときどき僕を見る。

ミシンの横で小さな僕は、
じっと、ミシンを見つめてる。

出来上がった服は、僕の大事な宝物。
大事に、大事に、いつも着る。

僕が大きくなって、着れなくなれば、
大事に、大事に、しまわれる。

僕の知らない近所の子に、
着てもらう、その日まで。

服には愛情が宿る。

服を見ただけで、その人が思い浮かぶ。

服をいだけば、その人の温もりを感じる。

そんな思い出のしみついた服が、

今日もまた、捨てられる。

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