エッセイ 古着の記憶
服には、思い出が、しみつく。
着古した子供の服を見ると、
それを着てた子供の姿が、
ありありと浮かぶ。
自分の服は割と簡単に捨てるけど、
子供の服は、ためらう。
僕の母もそうだった。
いつまでも、捨てない。
なぜなのか、わからなかった。
いま、鮮明によみがえる
子供のころの記憶。
母がミシンで、
シャツを作っている。
足踏み式の昔のミシン。
踏板を踏み込むと、
ウィーンウィーンと
ミシンの滑車が回転する。
カシャカシャと、針が上下する。
生地をミシンで縫いながら、
母は、ときどき僕を見る。
ミシンの横で小さな僕は、
じっと、ミシンを見つめてる。
出来上がった服は、僕の大事な宝物。
大事に、大事に、いつも着る。
僕が大きくなって、着れなくなれば、
大事に、大事に、しまわれる。
僕の知らない近所の子に、
着てもらう、その日まで。
*
服には愛情が宿る。
服を見ただけで、その人が思い浮かぶ。
服を抱けば、その人の温もりを感じる。
そんな思い出のしみついた服が、
今日もまた、捨てられる。