White point of view 2

「おいしー。 わたしやっぱりここのパスタ好きだ!」
パスタをほおばりながら、音羽は屈託のない笑顔をみんなに向ける。
「ここのご飯おいしいんだねー。学校近いのに来たことなかったのもったいないね」
奏太くんがそれに答えるように言う。
「俺も嫌いじゃないよ。味も雰囲気も……」
緑くんが、遠くをみるようにつぶやく。
「うん。わたしも……」
わたしは、緑くんと目を合わせて微笑む。
「それよりさ! この後どうする? まだみんなひまでしょ?」
勇人くんが話題を変えるように言う。
「そうね! どうする? カラオケとか行く? 真白もへいきだよね?」
「うん…… 音羽も行くなら行こうかな」
「じゃあ決まりね。駅前のカラオケ行こう!」

 チカチカ点滅するカラフルなライトが照らす部屋の中で、わたしは緑くんの隣に座っていた。音羽たちが歌う曲を聞きながら、ずっと緑くんの仕草を見つめていた。すごく自然ではかなげで、きれいな仕草。緑くんが奏でる音に、やっぱり少し似ている。南国の透き通った海に飛び込むように、わたしは緑くんの世界に足を踏み入れてみることにした。
「ねえ。緑くん」
「うん? どうしたの真白ちゃん」
「えっと…… 緑くんの弾くピアノ、わたし前から好きだったんだ」
「あっほんと? 俺のレッスン見てくれてたんだ。うれしいよ」
「うん。あと、なんか緑くんの世界観みたいなのも好き。それに、いい匂いする」
「はは。ありがとう。なんかそんなに褒められるとはずかしいな。でも、俺も真白ちゃんの音好きだよ」
「本当に? ありがとう! すごくうれしいわたし!」
「あと、そのショートカットすごく似合ってるよ!」
緑くんは繊細に微笑んで、わたしの茶髪のショートカットに優しく触れる。穏やかにまとわりつく虹色の幸せが、ふるえるように揺れて、蜃気楼みたいにわたしの世界で無数にまたたく。
「緑くん、連絡先教えて……」
「いいよ。いつでも連絡してよ! ゆっくり話したいしね」
「真白ちゃん全然歌ってなくない? 次歌ってよ!」
勇人くんが割り込むように話しかけてくると、音羽が勇人くんを引っ張って言った。
「真白は歌あんま歌わないんだよいつも! いいから楽しもう! ね?」
そう言うと、音羽はわたしにウインクする。わたしは緑くんの方にしっかりと向き直って、胸の鼓動を整える。
「あっうん。ありがとう。連絡するね! 緑くんと会いたくなったらいつでも」
「そうして。俺、真白ちゃんのその瞳のゆらめきが好きだよ。また見たくなる」
「えっ。えっと…… ありがとう」
「じゃあとりあえずカラオケ楽しもっか!」
少年のように無邪気に笑うと、緑くんは曲を入れてみんなの方へ戻っていった。わたしは、心に温かい何かが生まれたのを感じた。ピンクとオレンジが複雑に混じりあった生き物のような丸い何かが、わたしの体に聞いたこともない音を響かせる。わたしはその音を響かせながら、傷の匂いのするこの世界をあらためて眺めた。今は何だかすごくリアルで、すごく生々しくて、妙にキラキラして見えた。「よかった……」わたしは心の一番深いところで大切にささやいた。

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