Yellow point of view 3

 また泡の音が聞こえる。ころころと転がるような澄んだ音。それがどんどん遠くなって、ぼくは冷たい床の上にいることにやっと気がついた。少しだけ体が楽になっている。無駄のないデザインの木の椅子にしがみつくようにして立つと、そこには変わらず、オムレツとサラダがきれいに存在していた。ぼくは椅子に座り直し、無心でオムレツとサラダをむさぼった。いつぶりの食事なんだろう。あまりにも長い時間が経っていて思い出せない。ふと長針と短針だけの数字のない時計を見ると、時刻は0時を指していた。ぼくのものと思われる携帯電話には留守電のマークがついている。食べながら留守電を再生すると、「今日は帰れないかもしれない」というニュアンスの留守電が1件入っていた。留守電の内容から、ぼくの母親は医者をしているみたいだということがわかった。脳裏でチカチカといびつな星がまたたき、ぼくはふいに自分の部屋らしき部屋に戻った。そして適当な服に着替えて、鍵を見つけてポケットに入れ、急いでマンションの部屋を飛び出した。なぜだかチェックのマフラーをしていた彼のことを、少しだけ思い出したんだ。しかも、なぜだかすごく近くに彼を感じたような気がしたんだ。今度こそは彼を助けなきゃと、知らない何かが訴えかけていた。でも顔と雰囲気以外いっさい彼のことが思いだせない。体の動くままにエレベーターを降り、エントランスホールにある灰色のソファーに、とりあえず座った。ボフっと音がして、わたしは力が抜けた。まだ体が熱いことに気づき、ぼくはからみつく見えない小人たちを追い払って、体に力を入れる。力をふりしぼりなんとかエントランスを出ると、真っ暗な闇をフラフラと彷徨って歩いた。深い夢に落ちていくような安心感と恐怖が、同時にぼくを支配した。ぼくは変な高揚感にとらわれて、夜の街を、流れ星のように駆け抜けた。

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