革の厚みについて
こんにちわ、HAKUです。
今日は「革の厚み」について書いてみたいと思います。きっと悩んでいる方が多いテーマですね。私自身もレザークラフトを始めてから最初にぶち当たった大きな壁ですし、未だに製作の度に悩んでいるポイントでもあります。
「こういう時は何ミリ厚の革をつかえばOK!」っと言い切れれば楽ちんなのですが、こればかりはそうは行きません。だからこそ悩ましいポイントなんですよね。
結局、どのくらいの厚みの革を使えば良いかは、
①”自分なりの感覚”を養い
②その感覚を基にトライ&エラーを繰り返す
しかないのではないかな、と思っています。
今日は私が「革の厚み」について”自分なりの感覚”を養った経験等をご紹介してみます。
「制約」が「手がかり」になった
私がレザークラフトを始めた際、無謀にも「ラウンドファスナーの長財布を自分で作れるようになること」を目標として掲げました。まだまだ改良の余地はありますが、悪戦苦闘の結果、当初の目標は何とか達成することができました。イェイ。
あくまで結果論ですが、今考えてみると「ラウンドファスナー長財布」というのはなかなか良い目標だったなぁと思います。なぜかと言うと色々と試行錯誤をする中で、使う「革の厚み」について自分なりの感覚を身につけることができたからです。
もうピンときましたよね?そうです。ラウンドファスナー長財布というのはファスナーの幅で厚みの上限が決められている構造になっていますよね。制約がある…だが、それがいい。
例えばレザークラフトでよく使われるYKKの5号ファスナーでは、ファスナーテープの幅が約30mm。両サイドに縫い代は最低5mmは欲しいので、テープ幅は最大でも約20mmとなります。つまり、この約20mm幅の中に、カード段や小銭入れといった内装の要素を収めてやる必要があるわけです(もちろん、中身を入れた状態で!)。
このファスナー幅の制約条件が革の厚みを考える手がかりになってくれたのです。
「今晩、何食べたい?」と訊かれて「なんでも良いよ」と答えたら「そういう答えが一番困るのよっ!」っと奥さんや恋人に怒られた、という経験をお持ちの方も多いのでは?それと同じで「なんでも良い」というのは却って困ってしまうもの。「ガッツリ肉食いてぇ」とか「サッパリ系がいいな」とか手がかりがあると助かりますよね。
使う革の厚みを決める要素は色々ありますが、実際は作り手の好みに左右される部分が大きいと思います。パスケースやロングウォレットのような平面的なアイテムでは、作り手の好みで厚みを決めてもあまり問題にはならないでしょう。
ですが、殊ラウンドファスナー財布についてはそういう訳にもいきません。なんせ、厚みの上限が決められちゃっている訳ですから。「オレっちは分厚い革を使って男らしいハードなアイテムを作るゼィ!オラオラ」と思っていても、ファスナー幅の制約には逆らえない訳です。
そういった意味で、ラウンドファスナーの長財布は実用的な革の厚みを探る上でかなり良い作例だったのではないかなと思う訳です。
ちょっと具体的に見てみよう
「実用的な厚み」という部分について、もう少し詳しく見てみましょう。
もしラウンドファスナー長財布の内装に1.5mm厚の革を使ったらどうなるでしょうか?便宜的に「へり漉き」は考慮しないで、簡易的にシミュレションしてみます。
こちらの写真のように両サイドに2段(4箇所)ずつカードポケット、1箇所ずつフリーポケット、中央に小銭入れという仕様を考えてみましょう。小銭入れにマチは付けないとすると、内装は
内装ベース✕2
カード奥見附✕2
カード見附✕2
カード前段✕2
小銭入れ左右✕2
マチ✕4(折りたたまれるため1箇所あたり2枚分の厚みとする)
となり、一番多いところで14枚の革パーツが重なることになりますね。
厚みに換算すると1.5mm✕14=21mm。中身を入れていない状態で、既に最大厚がファスナー幅を超えてしまいます。これでは中身を収納したらファスナーが閉まらなくなっちゃうかもしれません。
では1mm厚ではどうでしょう?革の厚みで14mm程のスペースが必要になるので、残りは6mm。カード1枚あたりの厚みを1mmとすると、うち4mmはカードスペースで取られてしまいます。残り2mmに小銭と紙幣かぁ…もう少し余裕が欲しいかもしれません。
どうでしょう?全てのパーツを一律の厚みで作ることはまずないですが、こうやって考えてみると、どのくらいの厚みの革を使ったらよいか何となく見えてくる部分がありますよね。
こうやって約20mmの幅の中に機能を収めて実用性(収納力)を担保するためにアレコレと考え、試行錯誤したプロセスが厚みに関する感覚を養うのにとても役に立ったなぁと思う訳です。
ちなみに動画のラウンドファスナー財布を作った際は、内装に0.4mm、0.5mm、0.8mmの3種類の厚みの革を使いました。芯材は0.4mmと0.6mmです。床面が一切見えないように裏打ちをしたこともありますが、1mm以上の厚みの革は内装に使用していません。
ラウンドファスナー長財布を作る経験を通じて私の中で「1mm厚を超える革」➞「内装に使うにはちょっと厚めだなぁ」という感覚が染み付いたように思います。
自分で確かめてみよう
私がまだ初心者だった頃は、各アイテムにどのくらいの厚みの革が使われているのか、オープンにされている情報がほとんどありませんでした。教則本についていた型紙にすら使用する革の厚みが書いてなくて愕然としたこともあります。
だからこそ、ラウンドファスナー長財布を目標にアレコレ試行錯誤するというプロセスが厚みの感覚を養う上で大きく寄与してくれました。
今は教則本にも目安となる革の厚みが記載されていますし、ネット上でも私を含め使用している革の厚みを公開している人も多くいます。なので、一昔前よりも手がかりとなるデータは集められると思います。
ですが、データはデータ。自分の経験ではありませんから、やはり自分で実際に確かめてみることが大切だと思います。
だいぶ前ですが、Yahoo!知恵袋だったかな?こんな投稿を見かけたことがあります。
【Q】レザークラフトで長財布を作りたいのですが、どのくらいの厚みの革を使ったら良いですか?
【A】内装に1.5mm厚、外装に2mm厚を使えば大丈夫です。内装2mm、外装3mmでも良いです。
質問者の尋ね方も悪いと思いますが、どのような財布を作りたいのかを確かめずに断言してしまう回答者もあまり誠実とは言えませんね。聞く側、答える側、共に残念な例と言えるでしょう。
恐らく回答された方は、レザークラフトでよく製作されるバイカーズウォレットやトラッカーズウォレットをイメージされていたと推察されます。これらのアイテムを薄い革で作ると却って貧弱でカッコ悪くなってしまいますからね。
でも、私のような作風からすると卒倒してしまう回答です。私にとって1.5mm厚は外装に使うかな?というレベルの厚みですし、そもそも小物製作で1.5mmを超える厚みの革を使うことがほとんどありませんから…。
またトラッカーズウォレットなどはいわゆる「笹マチ」を含まない構造。なので内装に使う革も一律で「1.5mm」といった言い方ができるのでしょうけれど、マチを1.5mm厚で作るとなると、相当分厚い仕上がりを覚悟しなければなりませんね。そもそも折グセをつけられるかも怪しい…。
このように、どのくらいの厚みの革を使うかは、基本的には作るアイテムや個人の好み、目指す作風によって大きく左右される要素。裏打ちをするのか、芯材を使うのかによってもまた変わってきますよね。
時折、このYahoo!知恵袋のように安易に「内装には○○mm厚の革を使えばOK」なんて言い切っているケースも見かけますが、真に受けないほうが無難です。まぁ何事も断定口調ってのは怪しいもんだ。このあたりは以前のnoteでも書きましたね。
そもそも論で言えば、使う革の厚みは人に教わるものではないとも思います。どんな革を使うか?糸の種類は?色は?コバはどうやって仕上げる?…そういった仕様と同じように、自分の経験値・感覚を信じるほうが自分が望む仕上がりに近づけると思います。
参考までに…
とはいえ、何となくでも厚みの目安(手がかり)があった方が製作の精度も上がるのも事実。という訳で、ここでは参考までに、革小物を作る際の私の厚みの「感覚」「目安」についてご紹介してみたいと思います。
もちろん、これもあくまで参考情報。用途や革の種類によって変わり得るものです。みなさん自身の感覚や経験を大事にしてくださいね。
私は小物の内装を作る際は「0.8mm厚」というのをひとつの目安としています。もう少し補足すると、1枚革で使える最薄の厚みを0.8mm厚までと考えています。
理由は2つあって、ひとつは0.8mm厚が(もちろん革の質にもよりますが)何とかコバ磨きができる厚みだからです。0.8mmを下回ると、ハリ・コシの強い革でもヨレてしまい切り目磨き仕上げをするのが難しいです。
理由の2つ目は革の強度の問題。以前、あるタンナーさんから教えていただいたのですが、(あくまでも一般論として)革は厚みが0.7mmを下回ると、ガクンと極端に強度が下がってしまうそうなのです。
なので、私は0.8mmという厚みを一つの基準に考えて、それよりも薄い革の場合は1枚革では使用せず、裏打ちしたり、芯材を使うなど他のパーツと貼り合わせて使うようにしています。
また、薄さを優先に考えて、どうしても0.7mm未満の厚みにしたいという場合はナイロンやシャンタンなど革以外の素材を代替として使うようにしています。カード見附裏(カード段の見えない部分)は分かりやすい例ですね。
ちなみにATSUSHI YAMAMOTOさんも「革素材の肉感・ハリ感を残したい場合は0.8mm以上」という基準を持たれているそうです。ちょっと基準としている厚みの感覚が近くて嬉しくなっちゃいました。
しつこいようですが、これはあくまでも”私なりの感覚”です。ぜひみなさんはご自身の手で経験を積み、ご自身の作風に合った感覚を養ってくださいね。
「厚み」だけじゃない奥深さ
レザークラフトにおいて厚みの選定というのはものすごく重要なポイント。私は上述のような目安はありますが、いまだにアイテムを作る度に毎回悩んでいます。本当に難しい部分。
ただ、最近は「悩んで当然だよなぁ」っと開き直っている部分もあります。
ちょっとこちらの写真を御覧ください。
これは先日製作した二つ折り財布の試作品です。上と下で仕上がりの厚みがだいぶ違いますよね。でもこれ、型紙はもちろん、実は使っている革の厚み自体は双方とも変わらないのです。
では、何が違うのかと言えば、革の種類(質感)。両方ともタンニン鞣しの革ですが、上側は型押しシボ革(やわらかめ)。下側はハリ・コシ強めのスムースレザーです。
たとえ同じような厚みで作ったとしても、革の質感が異なれば完成後にこれだけの違いが出てしまう訳です。これを見ると一概に「何ミリ厚の革を使えばOK」と言い切れないって事がよく分かりますよね。超ムズイ…。
ちょっと二つ折り財布の製作裏話をすると、当初はスムースレザーの方で仕上げようと型紙を作り込んだり、漉き加減を調整して試行錯誤をしていました。でも、どう頑張ってもこの写真以上に厚みを抑えることができなかったのです。
これはこれで、堅牢性や存在感をウリにすればアイテムとして成立しそう。ちょっと革が固くて使いにくい部分もありますが、「使っていればそのうち革が柔らかくなるだろう」っと妥協をすれば「これで完成!」っとしてしまっても良かったのですが…。
私がイメージしていたのは、もう少し柔軟性があって薄造りのものだったので「これはもう、革の種類(質)を変えるしか無い」と思い最終的にはシボ革の方を採用しました。
作風や目指す仕上がり、強度、革の質…色々な要素との兼ね合いで決まるのが「厚み」という要素。めちゃめちゃ難しくて奥が深いですよね。だから、悩んで当然だなって思います。
私は普段、レザークラフトをやる際は「再現性」を大事にしています。そのために色々な場面でなるべく”感覚”に頼らないで済むような方法を模索しています。ファスナーの貼り方などはその典型例です。
ですが、この厚みの選定に関してはケースバイケースで”感覚”に頼らざるを得ない部分かな、と思っています。コツコツと経験を積んで「この質感でこのくらいの厚みであればこんな感じになるかな?」「ここはこの位の厚みで問題ないだろう」っという感覚というか、勘所を身につけていくしか無い部分じゃないかなという気がしてします。
最後に
いかがでしたか?「厚み」はなかなか難しいポイントですよね。
今回は皮革素材全体の厚みをメインに取り上げましたが、これだけではありません。さらに各パーツのヘリについても漉き加減や漉き方も考え、厚みを調整なければいけませんね。
そう考えるとレザークラフトって「革の厚みとの戦い」と言っても過言ではないような気すらしてきます。実際、私の憧れているとある革職人さんは「特に革小物づくりにおいては、繊細な漉きは欠かせない」と漉き機と手漉きを併用されていたりします。
とっても難しいポイントですが、ここにしっかりと向き合うかどうかが、作品の完成度を左右する分かれ道になるんじゃないかな、と個人的には思っています。
ちょっと注意深く色々なレザークラフト作品を見てみると、次のような作品を目にすることがあります。
・やたらとコバが分厚い
・各パーツの段差がくっきり
・カブセや前胴、ホック箇所などハリが欲しいところが弱々しい
・マチなどの薄いパーツのヘリががヨレヨレ
もちろん、狙ってこういった作品を作っているケースもあるでしょうけれど、私には(ちょっと言葉は悪いですが)「クラフト感」というか「素人感」が抜けない作品に映ってしまうことがあります。
「苦手だから」と漉き工程を省いてしまったり、各パーツの厚みを吟味せず手持ちの革で組み立ててしまうと、こういった状態に陥りやすいですよね。そうするとやはり完成度としてはイマイチに感じてしまいます。
難しいポイントだからこそ、しっかりと向き合って自分なりに攻略できればグンっと理想の作品に近づくハズ。私はそう信じて、毎回革の厚みに頭を悩ませています。