季節ごとに匂いが違う話
季節に匂いがある、ということを知覚している人間はどうやら少数派らしい。
それに気づいたのは幸いにも中学生の頃のことだが、なぜ気付かなかったのかといえば我が家が全員匂いで季節を感じるタイプの人間だったから。
「そろそろ夏も終わるね、今日は秋の匂いだったよ」
「今日は冬の匂いだった。近いうちに寒くなるね」
「あったかいなーと思ったら、春の匂いがしたよ」
「まだまだ風が冷たいけれど、匂いは梅雨だね。そろそろ雨の季節かー」
上記全て、我が家では何の違和感もなく話されている話題だし、実際に話したことのある・聞いたことのあるセリフ。
周りに聞いてみても匂いで季節を感じている人はごく少数であることが最近分かった。
ちなみにほんの数日前、まさに「春の匂い」を感じて家族で春の訪れに歓喜した。
残念ながらパートナーは大多数派である匂いで季節は感じられないタイプなので、我が家での会話にはついていけなさそう。
入婿状態になるのがほぼ決定しているのは本人も納得しているだろうけれど、その点に関してはスマンとしか言いようがない。こればっかりは本人の努力でどうにかできる問題でもない。
秋の訪れで代表的な金木犀だが、そういう類のものではない。
何といえばいいのだろうか。
空気中の湿度や花の匂い、土の匂いや温かい空気の匂い。
今の季節は花が咲き始めているであろう少し甘い匂いを運んでくる温かな空気の匂い。
寒くて痛い風が柔らかく頬を撫でるような感じ。
少し湿度を帯びてきた優しい土の匂い。
それら全ての匂いが「春」を感じる匂いを思わせる。
圧倒的マイノリティ、とはまさにこのことなんだろうなと。
中学生の頃にその話をしたときに仲の良い友達に馬鹿にされた。
「そんな匂いあるわけない」と。
初めて話した時の思い出と「馬鹿にされた」という衝撃はセットで覚えている。
だからその後もあまり人に話したことはない。
年を重ねてぽろっとこぼれ出たときに、「そうなんだね!」と肯定的な反応をしてくれる友人が今多いのは、人に恵まれたんだろう。
みんながみんなそういう反応をしてくれるわけではないのだから。
息子は果たしてどちらかな、なんて少しワクワクしながら今日も私は春の匂いがする日々を楽しんでいる。