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欠点こそが愛おしい 太宰治の巧みな人間描写【匣月世理のおすすめ小説 004】
こんにちは! 匣月世理です。
noteの投稿を始めて約一週間が経ちました。
初投稿の自己紹介記事には100以上のスキをいただき、フォロワーもあっという間に140名に達して、驚きと嬉しさでいっぱいです!
スキ&フォローをいただいた皆さま、本当にありがとうございました!
おすすめ小説も004に到達。三日坊主にならずに済みました(笑)
今後とも匣月世理のnoteを読んでいただけると嬉しいです。面白かった記事があれば、ぜひスキ&フォローもお願いいたします!
No.004 『ろまん燈籠』
著者は太宰治(だざい・おさむ)。
もはや紹介不要かと思いますが、昭和初期に活躍した小説家で、今なお愛される名作を数多く残しています。国語の教科書常連の『走れメロス』の知名度たるや、日本文学の中でトップを争うのではないでしょうか。
代表作の『人間失格』に加えて、度重なる自殺未遂の末の玉川上水での最期という経歴ゆえに「暗い」イメージが先行しがちですが、実は「ユーモア」にあふれる作品もたくさん書いています。
今回おすすめする『ろまん燈籠』も、五人の兄弟姉妹とその家族が生き生きと描かれ、とても愛らしく、思わず笑みがこぼれてしまう作品です。
あらすじ
八年前に亡くなった、洋画の大家、入江新之助氏の家族はみんな少し変わっている。文芸の趣味を同じくし、ロマンスを愛する五人の兄妹(長男・長女・次男・次女・末弟)は、時々、物語の連作をはじめることがあった。
たいてい、曇天の日曜などに、兄妹五人、客間に集まって、おそろしく退屈して来ると、長兄の発案で、はじめるのである。ひとりが、思いつくままに勝手な人物を登場させて、それから順々に、その人物の運命やら何やらを捏造していって、ついに一篇の物語を創造するという遊戯である。
口頭で物語を紡ぐこともあれば、発端から大いに面白そうなときは、順々に原稿用紙に書いて廻すこともあった。たまには、祖父・祖母・母も手伝うことがあって、そのような合作による「小説」が、すでに何篇もたまっている。
たいてい末弟が、よく出来もしない癖に、まず、まっさきに物語る。そうして、たいてい失敗する。けれども末弟は、絶望しない。こんどこそと意気込む。お正月五日間のお休みの時、かれらは、少し退屈して、れいの物語の遊戯をはじめた。その時も、末弟は、僕にやらせて下さい僕に、と先陣を志願した。まいどの事ではあり、兄姉たちは笑ってゆるした。
年のはじめの物語ということで、原稿用紙にきちんと書いて順々に廻すことにした。締切りは翌日の朝。めいめいが一日たっぷり考えて書くことができる。そうして五日間をかけて、一篇の物語を完成させる。
感想・コメント
唐突ですが、私は、太宰治と、前回【匣月世理のおすすめ小説 003】で紹介した森見登美彦は、どこか似ていると思っています。共感していただける方は、ぜひコメントで教えてください!
というわけで、004で太宰を取り上げたのは偶然ではなく、私としては、森見ときたら太宰を紹介せずにはいられない。森見ファンは太宰のユーモア小説をきっと楽しめると思いますので、未読の方にはぜひ手に取ってほしい作家です。
さて、この記事を書くために改めて『ろまん燈籠』を読み返したのですが、面白すぎてページをめくる手が止まらなくなりました。おかしくて声をあげて笑ってしまうのに、読後にはほんわかした気持ちとともに一抹の寂しさを残していく素敵な短編です。
太宰治の巧みな人間描写がすばらしく、短い作品の中にたくさんの人物(五人の兄妹たち、ご母堂、祖父、祖母、女中の少女)が登場するにもかかわらず、みんなの個性がしっかり立っていて、それぞれの欠点すら、いえ、欠点こそがキュートで愛おしく感じられます。
冒頭にも書いたように、退廃的な作風がクローズアップされがちな太宰ですが、決してそういう小説ばかりではありません。誰しも完璧ではないからこそ愛すべき存在だと教えてくれる、ユーモア抜群で、人間への優しさを感じる作家です。
(私は本および本屋という文化の継続と発展のために購入を推奨するスタンスなのですが…)今回おすすめしている『ろまん燈籠』を含めて、太宰治の小説は「青空文庫」で無料で読むことができます。名作がタダで読めるなんてお得すぎますね…!
鬱々とした作品は苦手と太宰を避けてきた方にこそ読んでもらいたい傑作短編です。太宰治が描くキュートな家族に恋してみてはいかがでしょうか?
*最終更新日 2024/10/24