映画日記 『デヴィッド・ボウイ 幻想と素顔の狭間で』 テレビ番組なのか?
今年初めての映画館。デヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画をアップリンク吉祥寺で観た。
ボウイが、ジギースターダストで最初の頂点に立ったのは、今から半世紀以上前の1970年代前半だ。その当時の、いわゆるグラム時代の彼を支えたバックバンドのメンバーや最初の妻アンジーがボウイについて語っているドキュメンタリーだ。
ライブ映画にもなっている1973年7月3日、ハマースミスオデオンの二日目のステージで、ボウイは「ジギー・スターダスト」を封印して、バンド(スパイダーズ・フロム・マーズ)も解散すると宣言した。
これはバンドメンバーには寝耳に水だったようで、彼等は翌日から無職常態で放り出された。
マネージャーからは口約束だったからギャラももらえず、ボウイにも連絡が取れず、何人かはその後、失業手当を受けることになったのだそうだ。儲けたお金はボウイが独り占めしたんだそうだ。
それまで「ジギー・スターダスト」という架空のロック・スターを一緒に作り上げてきたのに、ギャラも貰えずに解雇、捨てられたのだ。
そういった証言を中心に構成されたドキュメンタリーだ。
インタビューされているのは、スパイダーズ・フロム・マーズのメンバーだったベーシストのトレヴァー・ボルダーやドラムスのウッディ・ウッドマンジー、BBCの当時のプロデューサー、ボウイの元妻アンジー・ボウイら数人と、意外と少ない。
ボウイ・ファンの私の知っている限り(といっても大したことはない)、彼等は1970年代前半でボウイとの関係は終わっていて、その後はほぼ関わっていない。
ボウイの活動の初期から、この映画が扱っているグラム時代、その後も少しの期間をのぞいて晩年までボウイと共に仕事をしていたプロデューサーにトニー・ヴィスコンティがいる。
ヴィスコンティは、ボウイの死後も、今日に至るまでリマスターやらボックスセットなどに関わり、ボウイ関係の仕事をしていて、多分、しっかり儲けてもいる。ボウイについて語るには、もっともふさわしい人のように思えるが、本作には登場しない。
そんなことを考えると、このドキュメンタリーは、取材対象が偏っているし、少なすぎる印象を受ける。
そういえば、ウッディ・ウッドマンジーは、トニー・ヴィスコンティと一緒に、『世界を売った男』再現ライブで来日していたではないか!
このライブは、トリビュート・バンドがボウイのアルバムを再現するというやつで、ウッドマンジーがドラムで、ヴィスコンティは、ベースでバンマスだった。
コーラスに、ミック・ロンソンとヴィスコンティの娘が参加していることで、一部で話題になった。
確か、ボウイが亡くなる前の2015年くらいに、ビルボード東京で限定ライブをしたんだったと思う。
ウッディ・ウッドマンジーは、反ボウイ派なのか、親ボウイ派なのかわからず、私はちょっと混乱した。現実は反や親に二分できるくらい単純じゃないということだろう。
それにしても、お金も時間もかかっていないドキュメンタリー映画だった。それぞれのインタビューも、その時、一回きりのもので、内容もそれほど深く突っ込んでいないから、やっつけ仕事みたいな印象を受ける。
最初から期待はしていなかったが、本当に新しい証言は一つも出てこなかった。
アンジェラ・ボウイは、まだアコギでフォーク調が抜けきらなかったボウイを、ロック調に仕立て、バンドメンバーのファッションもコーディネイトして、グラムバンドに作り替えたと言っているが、これも彼女の自伝では既に書いてあることだったし(『哀しみのアンジー: デヴィッド・ボウイと私と70’s (THE INSIDE STORY) 』ダイエックス出版 )、アンジェラの功績なのかといったら、そうだともいえるし、放っておいても、いずれそうなった気もする。
トレヴァー・ボルダーやウッディ・ウッドマンジーは、ボウイのフォーク調の曲を、俺たちがロックにして演奏したんだと言っている。これも彼等の功績ではあるのだろうけど、放っておいても、ボウイはロック化したと私は思う。そもそもロック化が必要だったから、彼らが集められたのだ。
そういえば、ギターサウンドをギンギンに効かせたボウイ最初のロックアルバムが再現ライブで演奏された『世界を売った男』だったか。
この映画で語られていることは、ボウイ関連の本に書いてあることばかりで、なんでこのドキュメンタリーを作ったのだろうか?と疑問に思っていたら、唐突に終わってしまった。
もともとがテレビのドキュメンタリーだったのか、60分しかないのだ。画質もスクリーンというよりは、テレビサイズ向きだった。
デヴィッド・ボウイが主役?のドキュメンタリーなのに、ボウイのコトバが一つもなかった。ボウイの過去のインタビューからの引用もなかった。それは許可が出なかったからなのだろうか。
ドキュメンタリーにしては、ずいぶんといびつな造りに感じられた。いや、それ以前になんだかみんな古臭いのだ。服装も変だ。というか、アンジーなんか、まだ50代に見えた。
うーん……。
トレヴァー・ボルダーやウッディ・ウッドマンジーは、ボウイのバックバンドだった「The Spiders from Mars」時代が、自分の音楽活動のピークだったように語っている。
その後の今日までの長い人生を、彼等はどうやって生きてきたのだろうか?どうせなら、彼等を主役にして、ドキュメンタリーを作った方が、面白いものが出来たように思う。
需要は少ないだろうが、そっちの方が絶対に深みのある作品になると思う。
アップリンクのホームページで、このドキュメンタリーの詳細を確認してみたら、2007年とあった。まだボウイが生きていた頃に作られた作品だった。なんで今公開されているのだろうか……。
うーん……。