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不確かで取り返しのつかないつながり



ピーター・ウルフのFacebookをみたら、自伝だか回顧録を出したとあった。

ピーター・ウルフは、1980年代前半にヒット曲を連発したJ.ガイルズ・バンドのヴォーカルだ。

タイトルは『Waiting on the Moon』。日本で誰か翻訳してくれないだろうか、と思うが、きっと翻訳されないんだろうな、と今からガッカリしている。

私は自分ではFacebookはほとんど投稿をしていないが、閲覧だけはしている。知り合いが何人か、積極的に更新しているからだ。

学生時代に仲の良かったピーター・ウルフ・ファンの友人も、毎週、更新していた。それが5月の半ば以来、途絶えている。

友人は3年前に肝臓癌が発覚して、手術をしている。その時は、ステージ3だった。

「手術は成功したから、5年生存率は、40%くらいあるよ」と、友人は言っていた。

それがあったので、さすがに気になって、友人の家に初めて電話をしてみた。

通じなかった。

固定電話は取り外してしまったのだろうか?

最初はFacebook経由で連絡を取ったが、反応がなかった。それでスマホにかけて、やっぱり反応がなくて、何度かかけて、「電源が入っていないか近所にいないという」インフォメーションが流れるようになった。そういえばと思い出して、自宅の番号にかけたら、通じなくなっていたのだ。

友人は、息子と二人暮らしのはずだが、息子の名前も知らなければ携帯の番号も、彼らの今の住所も知らないのだ。


地方都市で大学生をやっていた頃は、その友人と毎日一緒に過ごしていた。友人が車の免許を取った時は、私が助手席に乗っかって、練習だかドライブにつきあった。

ストーンズやJ・ガイルズ・バンドが好きな奴だった。友人はバンドを作って、ヴォーカルを担当していた。バンドの練習の時には、メンバーでもない私を、毎回、車で迎えに来て、スタジオに付き合わされた。

ライブをやる時は、私がカメラマンだった。メンバーでステージ・アクションを練習して、ボーカルがジャンプした時に、うまく全員がおさまるようなアングルを探して、本番でもうまいこと写真に撮った。その時の写真とフィルムは、まだ私の実家にあるはずだ。

その後、友人はアパレル企業に就職して、関東に住むようになった。私は東京に住んで、自営業というか、フリーターみたいなことをしていた。それからは滅多に会わなくなって、徐々に疎遠になった。

10年位まえに、友人の妻が癌で亡くなったと聞いた。案内もなかったから、お葬式にはいかなかった。

私は非常識な人間なので、ピーター・ウルフやレイ・デイヴィス、イギー・ポップの新譜を、香典代わりに送った。それから、また、時々、連絡を取り合うようになった。

奥さんに先立たれてから友人は、一人息子と二人暮らしになって、引っ越している。だから今の住所を私は知らないのだ。

友人の息子は30歳を越えている筈だが、基本的にニートで、家から出ないらしかった。

息子と二人暮らしになってから友人は、飼っている猫や、家の近所の海の風景を、毎週、Facebookに載せるようになった。


友人が肝臓癌になって手術をしたのが、3年前だ。術後に何度か電話で話をした。

前にも書いたが、「ステージ3だったけど、手術がうまくいった。5年生存率は40%くらいあるよ」と友人は言っていた。手術が成功しても40%なのだ。100%の半分もないのだ。

最後に電話で話した時、友人は「新しい仕事を始めた」言っていた。

自分の車で品物を運ぶ配送業だ。Amazonの配送のように雑多で大量の小包を運ぶのではなく、研究所から工場、工場から工場といった、決まったところに、開発中の製品や部品を運ぶ仕事で、一回の配送先は一か所、運ぶものは、多くても数個だと言っていた。

その代わり、配送先は青森から九州まで日本全国にわたり、しかも締め切りがあるので、場合によっては相当にきついと言っていた。

友人は、車の運転は好きだし、誰にも気兼ねなしで出来るので、今の自分に合っていると言っていた。ギャラも他の配送業に比べたら、相当に高いようだった。

「俺は息子のためにも死ねないんだ。金を残してやらないと」と電話で言っていた。近々会おうと言って、それきりになっていた。

その後も友人は毎週、Facebookを更新していたので、順調なのだろうと、私は思っていた。

40%のことは意識の外に置いて、このまま大丈夫なのだろうと、私は思っていた。

Facebookの最新の投稿が5月半ばだから、もう7か月も更新されていない。

再発したのだろうか?

入院でもしているのだろうか?

……もう亡くなっているかもしれない……。

気の小さい私は、色んな妄想がもたげて来て、落ち着かなくなっている。

友人のFacebookに登録している人達にメールで友人のことを尋ねてみたが、不発だった。友人のプライベートなことを知っている人はいなかった。

私にとって数少ない大切な友人だったが、スマホ・携帯電話とSNSでしか繋がっていなかった。あまりにも不確かすぎるが、もう手遅れだ。

私の場合、そういう関係が最近は多くなっている…。

友人の東北の実家には、確か独身の弟が住んでいる筈だ。しかし、場所はうろ覚えでわかるのだが、住所や電話はわかない。

なんだか、大きく失敗したなあ、という感覚だ。

友人のFacebookを見ながら、どんよりドキドキしている。






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