書籍レビュー『ワークマンはなぜ2倍売れたのか』
『エクセルでもDXができる』
作業服のワークマン。
その名前は知っていたり、店舗を見たことがあっても、入ったことがある人は近年まで少なかったのではないだろうか。
それが昨今、ワークマンプラスにってアウトドア、スポーツカジュアルブランドとしての認知がついたことで初めて店舗に足を運んだという人が爆発的に増えた。
かくいう私もその一人である。
コロナ禍においても大きな成長を遂げたワークマンの成長の秘訣を、インタビューを元にしてまとめたのが本書である。
成功の要因には、もともとワークマンが持っていた店舗展開力に加え、低価格・高機能なプライベートブランドの投入、そして土屋哲雄氏による広報戦略が相まったことが記されている。
複数の要因が成長を支えたのは確かだが、私はその中でエクセルを使ったデータ分析を全社員レベルで行ったことに注目したい。
ワークマンはフランチャイズ方式であり、店舗は主に自営業の夫婦で経営している。
ワークマンの社員はSV(スーパーバイザー)として、フランチャイズ店舗に対する経営支援を行っているのである。
当然、データ活用に詳しい人材ばかりがSVになるわけではなく、むしろ、小売業の一般的な状況からすればデータリテラシーやデジタルリテラシーはそれほど高くなかったのだろうと推察できる。
これまでの作業服ではなくアパレルとしての新商品を展開していく際に、先の見えない市場を見通す武器として、ワークマンは勘と経験に頼るのではなくデータ分析を重視する方向に舵を切った。
こうした流れでは、普通であれば昨今のDXの風潮を踏まえて、データサイエンティストを雇い、社内にデータ分析専門部署を設立して、とやりそうなものだが、ワークマンはそうしなかった。専門性の高い分析ソフトではなく、だれでも使えるエクセルでデータ分析をすることにしたのだ。
しかも、その対象は全社員である。
私はここに、ワークマン社内のデータ活用が一気に浸透した秘訣があると思う。
データ分析という小難しい領域を、一部の専門的な人が担っているのでが、社内のほとんどのメンバーは自分ごと化できない。
一方で、エクセルでもいいので自分でデータを見て、触り、何らかの分析結果を出すことでデータが社員にとって身近になっていく。
こうした地道な活動が、社内にデータを基に考える文化を根付かせる大きな礎になるのだと思う。
本書でDXという言葉は全く使われないが、DXという言葉の幻想を追うより、よほど現実的で実践的な、まさにDXの事例である。