ネタメールは遊びに限る

ラジオ番組のネタコーナーにメールを送ることは、ある程度の努力が必要です。どれだけバカな内容でも、どれだけ適当に書いているように思われても、どれだけ天才でも、いいネタメールは努力が生んだものです。

しかし、その努力は無駄です。ネタメールでお金を稼ぐこともないし、たくさん頑張っても確実に採用されることもないです。無駄な努力なのに、何回もやりたくなるのはネタメールなんです。

俺が経験から学んだことは、努力の方向性を間違えると、楽しくてバカバカしいラジオも嫌になるということです。とりあえずどこでも採用されたいからいろんな番組にメールを送りまくって、どこでも採用されずに落ち込むことがあります。一回採用されたからその番組に狙いを絞っても、二度目の採用は実現しないこともあります。とりあえずすごい数のメールを送ることを目標にして、前の週よりも少ない数のメールを送ると訳の分からない不安に襲われます。数のためにそんなに気に入ってないネタまで送る時、自信のあるネタが読まれずにダメな方だけ読まれるとモヤモヤします。

俺がこの負のスパイラルを経験したのは2017年の春です。俺の場合、これら全ての原因は間違っている目標を立てたことです。採用されることを第一の目標にしたことで、納得のいけないことが増えていきました。深夜ラジオの人気番組の狭き門に挑んでいたのに、結果を求めてしまいました。遊びだったはずのもので結果を求めることが間違っていたんです。

採用率が徐々に下がっていきました。それと同時に送るネタメールの数も減っていきました。これは自分でコントロールできていたことではなくて、単純に落ち込んだ結果ネタを思い浮かぶことが少なくなったからなんです。最終的にネタメールが単なる苦痛になって、送ることを正式に辞めることを決意しました。

ハガキ職人としての終わりが気持ちのいいものではなかったです。「引退」に相応しい辞め方でもなかったし、「クビ」と言えるように誰かのせいにすることもできませんでした。自分の行いで勝手に壊れて、追い込まれて選ばざるを得なかった「廃業」でした。そりゃ辞めても気持ちがよくなることもなかったはずです。よくメールを送っていた番組も聴けなくなって、ネタメール以外にも書くことがちょっと苦手になりました。

この生々しい傷をケアせずに、ただ忘れることにして数年経ったあと、俺はまた毎週ネタメールを送っています。復活は1ミリも考えなかったけど、ちょうどいいきっかけに出会った時、俺は嫌な過去と向き合いたい気持ちになりました。

そのきっかけとなったのはラブレターズがやっている「階段腰掛け男」というラジオ番組です。この番組のとある回で、海外から聴いているリスナーからメールが届きました。この珍しいメールのおかげで番組が盛り上がって、いつもいいネタメールにしか与えない番組ステッカーを海外まで送ることになりました。この放送を聴いていた時、俺はふと思いました。「海外からもう一人のリスナーがステッカーを強請ったら面白いのになぁ。」その展開を作れるのはおそらく自分しかいないということに気づいて、何も考えずに勢いでメールを送ってみました。そのメールが読まれました。そしてステッカーを貰いました。

軽いノリで送ったメールでわざわざフィンランドまでステッカーを送ってもらったことで今までに感じたことがなかった類の感動を覚えました。ハガキ職人をやっていた時代にフィンランドからネタメールを送っていたことを隠していたので、今までネタメールで何かを貰うことは一度もなかったです。一回番組ノベルティーに選ばれたことはあったけど、その時に住所を送る勇気がなくてノベルティーを断りました。

ステッカーを貰った嬉しさの反面、いつも番組にたくさんのネタメールを送っているハガキ職人が貰うべきステッカーを1枚盗んだ申し訳無さもありました。自分なりに考えた結果、ステッカーのお返しとしてネタメールを送ることにしました。ネタメールで苦労したら、1枚のステッカーに相応しいリスナーになれるというよく分からない理論に辿り着いたんです。

また失敗しないためにルールを作りました。自分を追い込まないために、自分が満足できることを唯一の目標にしました。採用されなくてもいいから、自分でゲラゲラ笑えるようなネタだけ考えました。もしそれが読まれたら、採用される嬉しさの上に、自分が本当に心の底から好きなネタで読まれる幸せも味わえます。ただ採用されたいだけの願望で得られない幸せです。

そしてもう一つのルールは、数を気にしないことです。とりあえず1週間で気に入っているネタを1通でも送れたら、それでいいんです。だけど、ネタメール作りは常にしないと慣れないものなんです。ネタメールのことを常に考えないと書けないものです。なので、1週間で1通を送ることで習慣を身につけることにしました。しかし、そのルールを作る必要がなかったです。また再びネタメールを考え始めたら、ネタを思い浮かぶスピードが半端じゃなかったです。送りすぎないように、逆に1通以上送らないルールを作りました。それ以外のネタをメモに入れて寝かしました。

今回俺がネタメールで落ち込まないようになれた理由はネタのストックを作ったことだと思います。ネタを思いついた時に、ネタを思いついた時に、すぐに送らずに一旦寝かした方はメリットが多いです。

まずは、それぞれのネタを自分で楽しめる時間が増えます。ネタメールは送った途端に頭から消えるので、すぐ送ると楽しめる時間も短くなります。そしてそれぞれのネタを考える時間が長くなると、ネタのクオリティーが明らかによくなります。同じネタを数週間寝かすとネタの文章を変えるアイデアもいくつか思いつくし、面白いと面白くないネタの違いにも気づきます。面白いネタはどれだけ寝かしても面白いけど、思いついた瞬間だけ面白いものもあります。そういうネタは自分でもなぜ面白いと思ったのかも忘れます。そしてネタを寝かすことでできることは他にもあります。ネタを一回忘れて、あとで読み返すと「俺はこんなに面白いことも書ける」と思えるようにもなります。それが自信に繋がります。

今振り返ると、ストックを作らなかった時は常に全部を出し切ってる状態だったから余裕があまりなかったです。ストックがあると、ネタを必死に絞り出す必要がないから、余裕が生まれます。余裕がある限り、満足できます。余裕がある限り、自分が楽しめる遊び方も見つけます。ストックがあまりにも大きくなる時は送っている数を一時的に増やせるだけで済みます。ストックがまた減ったら、送っている数を減らしても前よりも頑張っていない気持ちにはなりません。いいネタを一つでも持っていたら満足できます。

この方法でメールを送ることを始めてから、ありがたいことに階段腰掛け男でよく採用されるようになりました。採用されない時も以外と楽です。考えるだけでも満足しているネタを送っているから採用率を気にしなくなりました。結果が出ない悔しさも、勝負に出たのに無視される恥ずかしさもないです。そして採用された時、ラブレターズの二人が笑ってくれる気持ちよさに叶うことは他にありません。

階段腰掛け男のおかげで俺は昔の傷を治すことができました。その上に毎週の楽しみが一つ増えたので、あまりついてない時にも階段腰掛け男で気持ちの切り替えもできます。溜口さんのメール読みが上手くて、いつも自分が想像した読み方を遥かに超えています。拙い文章でもいいネタに仕上げてくれるので、一緒にネタを作っている感じも多少あります。塚本さんの反応はいつも面白くてネタメールの送りがいを感じます。メールの内容をよく聞き入ってて、自分で意識してない部分に対する指摘でもいろいろ面白い発見があります。

今チェックしてみたら、階段腰掛け男に初めて送ったメールから1年3ヶ月が経っています。ハガキ職人として活躍していた時代よりも遥かに長く続いてるので、今の方法は間違いなく正解です。そして今辞める気持ちはありません。今後も辞める予定もないです。とりあえずラブレターズについて行く覚悟でネタメールを送り続けます。

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