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ナースのお仕事その4~急性期編

多種多様な職場環境といえど、やはりほぼ病院での勤務者が多くなるのは
必然で必要。
その中でも、大きく分けて「急性期」と「慢性期」の分野がある。

「急性期」とはその名の通り、内科的であれ外科的であれ、
緊急を要するような状態に対応する場所で、検査、診断、入退院など
めまぐるしい日常が繰り返されている。
「慢性期」とは、病気は治癒していなくとも比較的安定した状態、
あるいは、長期にわたって治療が必要な状態、そして、
治療が限界となり、あとは苦痛を緩和する目的の状態など、
ざっくりとわけると、そんな感じか。

自分も、学校卒業後まず飛び込んだのが、急性期の世界。
今でこそ、サービス残業や持ち帰り仕事の規制が行われているが、
当時は一人前になるまで、そんなこと言ってられなかった。
日勤で帰宅時間は22:00なんてざらだったし、昼休憩も急患が来たら
繰り上げ返上。
新卒は指導を受けながら、研修もうけながら、わからないことは帰宅後
学習しなければ追いつけない。
仕事のできる先輩を憧れとし、自分も早くああなりたい!と希望を胸に、
ストレスは同僚と居酒屋で発散しながら、頑張っていたように思う。
ナースキャップがあった時代。
半人前なのに、患者さんからは一人前として見られる責任と緊張。
キャップをつけると、気持ちが仕事モードになるから不思議。
白衣は、戦闘服なのだ。

戦闘服には、いろんな武器が仕込まれている。
本当にできる人は素手でも戦えるのだが、新人はそうも行かない。
必要になるかもしれないモノは、装備しておきたいのだ。
だから、ポケットがパンパンに膨れてしまうし、腕はメモ用紙となり、
呪文のように、忘れてはいけない文字が刻み込まれていく。
そこまでしていても、家に帰ってお風呂に入って腕を見て、
やば!これを記録するの忘れた!なんてことも、あったりするふがいなさ。
それくらい、忙しい日々だった。

タイマーを2つもって同時に複数の検査をしたり、午前中退院対応、
午後から入院対応は毎日で、その間に血を天井まで吹く人もいれば、
心肺停止する人もいる。
勤務時間内で記録まで回らないので、残業となる。
夜間勤務は、検査や退院はないけれど、緊急入院がこわい。
二人勤務での夜勤が通常なので、状況によっては手が回らなくなる。
心停止の対応しながら先輩をPHSで呼んだら、先輩も心マ中、なんてこともあった。
歩くのも速くなるし、食べるのも早くなるし、早口にもなってしまう。
わりと順応できていたように自他共に感じていたが、
1年たった頃、自分の口癖に呆然とした。

「ちょっと待ってね」  毎日口から出ていたこの言葉。

秒刻みでの流れを把握しながら動く中、患者さんとのコミュニケーションは大事だとわかっていても、業務に追われ、足を止められないとき出る言葉。
もちろん、会話はするし、かわいがられていた方だった。
でも、常に相手と向き合えていたかと問うと、できていなかった。
次にしなきゃいけないことがあると、切り上げるタイミングをはかり、
足すら次に向かう方向へ向いていたかもしれない。
急性期だからこそ、不安を抱える人が多いのに。。

もっとゆっくり話がしたい。
気持ちの変化や不安に気がつけて、心のケアもできる看護師になりたい。
急性期病棟で気がつくことができた、目標。

やっぱり、経験がものを言う世界。
業務をこなせられるようになると、気持ちの余裕も出てくる。
ポケットのふくらみも少しずつ小さくなり、腕に刻まれる呪文も減る。
ソワソワすることはあっても、足を止める時間も作るよう意識した。
そんな3年間を過ごせたのは、理解ある先輩や、愚痴をこぼせる同僚や、
守ってくれた先生達のおかげ。 ラッキーだったと思う。

環境の力は、大きい。
どこで働くか、より、誰と働くか、だと思いはじめたのは、
この辺から来ていると思う。
同じ病院であっても、病棟によって雰囲気は違う。
辞めていった友人もいた。
辞めなくても、仕事が面白くないと聞くこともあった。
性格や得手不得手も個人差があり、看護師だって医師だって、
得意分野・不得意分野はある。
働きながら、それを見つけていくのもまた、目標となるだろう。
そのための一歩として、やっぱりまずは、急性期での勤務を勧めたい。
スパルタだけど、できないことは目の前に叩きつけられるし、
できたあと、さらに興味を得たか失ったか、
笑顔でいられるかいられないか、
仕事をする自分 を受け入れられるかどうか、見えてくるんじゃないかと。
どんな仕事にも、共通するかもしれない。
ただ、生々しい生と死が、日常的に目の前にあるという、職種なだけ。

ドラマなんかでは、職場恋愛や患者さんからの求愛など、
こっちから見たら、思わず笑ってしまうような設定があったりする。
こんなイケメンDrなんていないし! こんな看護師いたら仕事にならん!という突っ込みどころ満載な話、よくある。
しかし、意外と実際にあったりすることも中には。

まず、職場恋愛(異職種間)。
DrとNs、レントゲン技師とNs、事務とNs…などなど、
急性期にはだいたい若い子が入職してくるので、けっこう、よくある。
遊びに行く時間もなく、ほぼほぼ同じ時間を過ごしていると、
他に目が行く機会もないからか、苦楽を共にするからか。。

そして、不倫。
なぜか、外科系に多い気がする。
あちこちの職場で働いたが、そこそこの職場で話はあった。

患者さんと結婚した人も、中にはいる。
実は私も、退院時に花束を渡され、告白を受けたことがある。
丁重にお断りさせて頂いたが、先に述べた職場恋愛と同様、
弱ってるときに、優しかったり笑顔をもらったりし、
毎日顔を合わせていると、錯覚してしまうんだろうな。
もちろん、すべてを錯覚と言うわけではないが、
よほどのきっかけがない限り、仕事としてしか対応していないので
きっと相手も、退院後に我に返っているだろう。

それから、急性期慢性期問わず多いのが、離婚だ。
一人でも生きていけると思うと、思いとどまるブレーキが
甘いのかもしれない、と、我が身を振り返ってしまう。
若い頃はね、そう思ってしまうんだな。
今は、一人が楽な反面、不安も大きくなってきてるんだけどね。


急性期の夜勤は、三交代が多い。
二交代の所もあるが、集中力や体力を考えると、結構きつい。
夕方から深夜1:00までの準夜勤、その後から朝までの深夜勤、
これを組み合わせてシフトができる。
日勤・準夜勤・準夜勤・休み・深夜勤・深夜勤・休み となったとする。
三日働いて、一日休んで、二日働いて、一日休み、と見えるだろう。
ところがだ。
準夜勤で帰宅するのは、残業がなくてだいたいAM1:30~2:00。
そう、休みの日に突入しているのだ。
そして、深夜勤に出勤するのは、AM0:00~0:30(情報収集あるため)
ということは、実質休日であっても、無理はできず体力温存しておかなければならない。(人による)
逆のシフトのところもあった。
休み・深夜勤・深夜勤・準夜勤・準夜勤・休み。
これまた、最初の休みは夜中に出勤のため、自分の場合は少し寝ておきたい。深夜勤と準夜勤の間は、AM9:30に帰宅し、翌日の夕方出勤だから
少し間がある。
でも、準夜勤の翌日休みは前述の通りで。

なんだか、休みが休みじゃない気がした。
もちろん、体内時計も時刻合わせに忙しい。
ただいまーと子供の声で目が覚めたとき、「今、何ご飯?!」
と、飛び起きたこともあった。弁当作るのか、晩ご飯なのか、
寝ぼけてしまって苦笑い。

そんな急性期のいいところは、元気になって退院する人を送り出せること。
退院という形で、結果が見えるわかりやすさ。
治ってくれたという、充足感。
逆に、元気になれなかった人を見送る結果もあり、次の人に対応すると思えば、涙をこらえねばならない辛さもある。
思考も感情も、めまぐるしく流れる時間のなかでは、
白衣の天使 ではなく、 白衣の戦士 がぴったりだ。

そんな急性期の経験で得た戦利品は、今でも大事に思い出としてあり、
その後の慢性期看護でも、大いに役立つこととなった。
次回、慢性期病棟の一部を、紹介したい。



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