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最後の晩餐、選べますように

年を重ねるにつれ、だんだん食が細くなるのは致し方ない。
脂っこいものも胃もたれするようになり、堅いものは噛めなくなり、
瑞々しいものは咽せてしまう。
そのまま食べなくなり痩せていく人もいれば、
気持ちは若さを保っているから勢いだけは衰えず、食べられるものを
お気に召すだけ食べては、太ってしまう人もいる。
太りすぎは困るが(入院や入所したときに結構辛い目に遭う)、
食べる人は、まず比較的健康で長生きだ。

今は経管栄養や中心静脈栄養など、医学的に必要な栄養素は摂取できるが、
口から入れる、ということが大事なんだなと、痛感して仕事をしてきた。
だから、なんとか最期まで、頑張って食べていただきたい。
病院のご飯、おいしくないよね。いいよいいよ、好きなもの食べて!
と簡単に口に出せたら、どんなにいいか。。

どういうわけだか、お年寄りは、炭酸がお好き。
オロナミンだのリポビタンだのから始まり、ファンタは充填した翌日には
自販機から欠品している。
そして、ご想像通り、お餅が好きだ。 唐揚げも、好まれる。
喉の通りも悪くなり、水も咽せるのに、これらは不思議と通過する。
2週間ほど、三食鶏の唐揚げと、ソーメンとサイダーのみ、
というおばあちゃんもいたくらいだ。

私なんかは、家族も食べさせたい、本人も食べたいというのなら、
よーし、食べよっか!となるのだが、お断りされる例が多いのかもしれない(もちろん、病院ならば医師に確認はする)

あるとき、ご飯は食べられなくなったが、まんじゅうを食べたいという方がいた。息子も、死んでもいいから食べさせたいと同意。
よし!とスタッフが取り囲み、いつでも背中をたたける人、
吸引チューブ握りしめスタンバイする人、ワクワクと見守る人と、
ちょっと物々しい中、息子の手より渡されたまんじゅうを、
ニコニコペロリと6コも完食された。

またあるときは、一ヶ月以上食べられず点滴をしていた人が、
息子の顔見て寿司が食べたいと。
よしきたと用意し、一貫を三等分しながら口に入れると、
飲み込むんだなぁ。ワサビもつけろとか言い出すくらい。
本人と家族の満足そうな顔が忘れられない。

もう長いこと、鼻から管を入れて栄養剤を投与していた、おばあちゃん。
目はキョロキョロと動くけど、体を動かすことも、話すこともできない。
100才の誕生日を迎え、息子が会いに来た。
イチゴが大好きだったと言う。もう何にもわかんなくなっちゃったなあと。
そうかな? どうかな?
スポンジブラシで口腔内をきれいにするとき、反応は悪くないことを
知っていたので、仲の良い先生に許可を得て、家から持ってきたイチゴを
つぶしてガーゼにくるみ、口元に運んだら。
なんと、勢いよく吸い始めた。
そして、コクッと、飲み込んだ。
覗いていたスタッフも、うわー、食べたね!と大喜び。
病室と、おばあちゃんの口元から、イチゴのいい香りが漂ってた。
後日息子に話したら、早速買ってきてくれたけど、残念ながら、2回目はなかった。

食べる意欲があるならば、食べるチャンスはあげてほしい。
あの手この手をつくしても、やっぱりもう難しいとなることはあるけれど、
そうなったときは、もう先が見えてきたということだから、
咽せようが詰まろうが、好きなものを食べたい食べさせたい、
そんな気持ちは、受け止めてあげてもいいんじゃないかと。
どうしても、リスク回避が先を歩いてしまうので、思うようにならない場合が多いのだけど、自分だったらと考えたら。。

最期に何を食べたいかな?
栄養剤だけは、嫌だよね。。


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