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「ねこ」は鎹(かすがい)

小中学生の頃、初めて飼ったペットは、もらってきた雑種犬の「なな」。
犬を飼ったら「なな」という名前にしようと決めていた。
その理由は、もう忘れてしまったけど、私が大学生で実家を離れている時に亡くなってしまい、しばらくして、また家族が犬をもらってきて、家族がつけた名前は2代目「なな」だった。

その後、私がビエンチャンに住んでいた時に飼っていたのも犬だった。
こちらも雑種犬で、名前は「ルイ」。
外国っぽい名前で、なぜかその時は「涙」とも読めるのがよくて、その名前にした。
別に涙涙で暮らしていた訳でもなく、なぜ「涙」がよかったのか、それも忘れてしまったけど、ラオスは基本的にペットは放し飼いなので、この子が初めて家の中で飼ったペットだった。

ということで、それまで犬しか飼ったことがなかった私が、今はラオスのパクセーでネコ2匹と暮らしている。

日本にいる時、自分がネコを飼うなんて考えもしなかったし、犬派か猫派かと聞かれれば、迷うことなく「犬派」と答えていた。
実際、初めて実家で犬を飼った頃、私の周りには猫を飼っている人はいなくて、ご近所さんも同級生も、ペットと言えば「犬」だった。

当時の猫のイメージと言えば、気まぐれで、マイペースで、わがままで、人の言うことを聞かない動物という感じで、正直、全く興味を持っていなかったと思う。

いつの頃からか、叔母(母親の妹)がネコを飼い始めた。
家にも何匹か飼っていて、その頃、車屋さんをやっていた会社の事務所内でも飼い、敷地内で地域ネコにエサをあげたりもしていた。
どうやら、全て捨てられたのを拾ってきた子たちで、仲の良し悪しがあるらしく、家の中でも相性の合う子たち同士で部屋を分けて飼っていて、場所が足りなくなって、事務所でも飼って、ということになったらしい。
で、もうこれ以上は飼えない、ってなったけど、地域ネコを放っておくことは出来ず、エサをあげたり、避妊手術をしたりしていたのだ。
そして、こういうことをしている人がいると分かると、捨て猫がいたりすると叔母に連絡してくるご近所さんが出てきたり、会社の敷地内に猫を捨てていく人がいたりで、今で言う保護猫活動みたいなことをしていたようだった。

叔母の家に遊びに行くと、ネコがいるんだけれど、私はネコに慣れていないから、どう接していいか分からないし、ネコの方も、そういう私の雰囲気を察してか、あまり近寄ってこない。
だから、あんなにネコがいたのに、その当時は、全くネコと触れ合うこともなく、遠目に見ている感じの距離感のままだった。

そんなこんなで、日本では全くネコに触れ合うこともなく、2015年、パクセーに来て、その後、ラオス人の夫と結婚して、夫の家に居候して住み始めた時、夫の家には犬が1匹いた。
最初は警戒されたけど、すぐに懐いてくれて、とてもかわいかった。
翌年、その犬は亡くなってしまったけど、義母がまた犬をもらってきて、今も犬が1匹いる。

そんな時、近所の日本人の友人夫妻の家に遊びに行ったら、三毛猫のメスのネコがいた。
聞いてみると、どこかから拾ってきた訳ではなく、自然と家に住み着いたらしい。
この家は借家で、引っ越して来て間もなかったので、もともと、この敷地内に住んでいたのか、人が越して来て寄付くようになったのかは分からないのだけど、いつの間にか、家の中にも入ってくるようになって、自由に出入りしているそう。
夜は家の中では寝てないようで、ネコの方は飼われていると認識しているのかは分からないけど、日本人夫妻としては、首輪も付けて、エサをあげて、姿が見えないと心配して、すっかり飼っているという認識だ。
ダンナさんの方は、日本でもネコを飼っていたらしく、ネコ好きで、ネコの扱いにも慣れていたので、自然な成行きだったんだと思う。
ちなみに名前は「ミケさん」。

私の夫は、ネコを飼ったことがなくて、前に祖母や親戚と住んでいた家には、ネコが出入りしていたことはあったらしいけど、飼っているという感覚はなくて、私と同じく、ネコにあまり接したことがなかった。
そんな夫と私で、その日本人夫妻の家に遊びに行かせてもらった時、ミケさんもいて、夫はどうやら、ミケさんをとても気に入ったようだった。
聞いてみると、ミケさんは、おとなしくて、走り回ったり飛び跳ねたりもしないし、悪さもしない。
その上、ミケさんの方から夫に近寄ってきて、すりすりしたり、足の上に乗ってきたりして、撫でてあげると嬉しそうにする。
夫は、そういうネコに初めて出会ったらしく、すっかり気に入ってしまった。

ミケさんは、何歳なのか分からないのだけれど、友人夫妻がミケさんを飼い始めた頃には、見た感じからも、すでに成猫という感じで、数カ月後、気付いたら妊娠していて、友人夫妻の家で出産した。
ダンナさんは、ネコの出産にも慣れていたようで、手際よく、段ボール箱で出産&子育ての場所を準備して、無事に出産を見守ったのだそう。

子猫が産まれたという知らせを聞いて、私と夫は、子猫ちゃんたちを見に行った。
初めて見る、産まれたばかりの子猫はとてもかわいくて、お乳を飲んだり、寝たりしている姿は、なんとも言えず、ほっこりさせてくれる。
目が開いて、少し動き始めると、顔立ちもしっかりしてきて、1匹ずつのの違いがはっきりしてくると、夫は自然と「この子が1番かわいいなぁ」と。
「もし、もらうなら、この子かなぁ」なんて話をしていたけど、本当に引き取るとはまだ考えていなかった。
だんだん大きくなってきて、乳離れして、普通のキャットフードも食べられるようになってきた頃、やっぱり、そろそろ貰い手を探さないとなぁ、という感じになって、友人からも「うちに1匹どう?」って話もあり。
夫に「子猫ちゃん、1匹もらいたいなぁ」と言ってみたところ、すんなり「いいんじゃない」ということになり、夫が気にいっていた子をもらうことに。

私自身、その頃、どうしてネコを飼いたいと思い始めたのか、はっきりとは覚えていないんだけれど。
おそらく、友人宅で、ミケさんと接してみて、ミケさんは本当に人懐こくて、触っても怒らないし、むしろ寄って来てくれるし、それでネコと接すること自体への怖さみたいなものはなくなっていて。
さらに、ネコとの暮らしを間近で見て、それがなんだか心地よさそうに見えたのと、あとはやっぱり、出勤することもなく、仕事をするのも家だったから、家の中に仕事以外の癒しが欲しかったのかもしれない。

私も夫も、人生で初めてのネコ飼い。
ということで、友人夫妻に色々教えてもらいつつ、ネットとかでも色々調べつつ。

うちの家の周りは、放し飼いの犬がたくさんいるし、野良なのか飼われているのかも定かではない猫もいるし、ということで、安全面などを考えて、完全な室内飼いにすることに。
これまで、開けっ放しにしていることもあったドアや窓は、ちゃんと閉めて、家の中に、ネコ用のトイレも準備。

この1匹目の「はなちゃん」を飼い始めてから数ヵ月後、夫と一緒に日本へ一時帰国する予定があって、3週間弱、ラオスの家を離れることに。
家には義母もいるし、はなちゃんの世話は、近所に住む夫の叔母(義母の妹)にも頼んでいたものの、やっぱり心配で、たまに電話で様子を聞いたり、写真を送ってもらったり。
ラオスの家に戻って来てみると、はなちゃんは元気にしていたものの、やっぱり、私達がいない間、世話をしてくれる人はいても、義母も叔母もネコには慣れてないから、遊んでくれる人はいなくて、やっぱり寂しかっただろうと思うと胸が痛くて…

これからも、2人一緒に出張に行くこともあるだろうし、家を空けることもあるので、やっぱり、もう1匹、ネコちゃんがいた方がいいんじゃないかなぁと思い始め…

実は、私達が日本に行く前に、ミケさんは2度目の出産をしていて、その中の子を1匹をもらおうかという話に。
同じ母猫から産まれたとしても、相性はあるだろうし、もしどうしても合わなければ返す、もしくは他の子に交換するということで、友人とも話をして、2匹目を引き取ることに。
その2匹目の「うみちゃん」も夫が選んだ子で、家に連れて帰って様子を見たところ、すぐに仲良くなってくれて、一安心。

ということで、今は、夫と、夫の母と、私と、ネコ2匹の暮らし。

私がこの家に来る前は、夫と義母の2人暮らしで、それぞれが自分のペースで生活している感じで、食事も義母が作ってキッチンに置いておいたものを、夫は食べたい時に食べる。
それぞれの部屋があるので、一緒の空間にいることもほとんどなく、別に仲が悪い訳ではないんだけど、必要外のことを話すということもない。
なので、私と義母も、一緒の空間にいる機会はほとんどなくて、必要な時以外にわざわざ話すこともなく。

という感じだったんだけれど、ネコ2匹が家に来てからは、ネコのことで、それぞれ会話することが格段に増えた気がする。
義母も、ネコを飼った経験がないから、最初はどう接していいか分からないようだったけれど、はなちゃんは義母にも近付いていって、膝の上に乗ったりしていて、義母は嬉しそうだし、写真を撮っては友達や親戚に送ったりしているみたい。

そもそも、ラオスでは基本的にペットも家畜も放し飼いだし、動物に躾や訓練をして人間のいうことを聞かせる、という概念がない。
だから、私が、ネコ用のトイレを用意して、ネコに教えたら、ネコがちゃんとトイレで用を足す(トイレ以外で用を足さない)ということ自体が驚きで、夫と義母は、揃って、
「こんなネコは見たことがない」
「ラオスのネコは、こんなに賢くない」
「うちのネコは天才だ」
と大盛り上がり。
義母は会う人会う人にこの話をしていて、実際、最初の頃は、頻繁に、親戚や義母の友人が我が家のネコを見に来ていた。

義母は、ネコちゃんたちに、いつも話しかけているし、いつもと違う行動をしたり、かわいいことをしたりすると、いちいち私に教えてくれるし、夫にもネコのことを話したりしている。
我が家にネコが来たことで、確実に家の中の会話が増えた。

私と夫の関係性も、家が事務所代わりで仕事も一緒。もちろんプライベートも一緒。
寝室は一緒だけど、夫は自分の趣味兼仕事部屋があるので、なんなら家の中にいてもLINEで会話していることもあったりして、ほとんど顔を合わせることなく生活することも出来る。
お互い、ずっと一緒もしんどいので、このくらいの距離感がちょうどいいんだけど、子供がいないこともあって、もしネコがいなかったら、プライベートな会話は今よりずっと少ないんじゃないかという気がする。

そう言えば、日本のネコ好きの叔母にも子供がいなくて、夫である叔父さんとネコと暮らしていて、やっぱり、叔母と叔父の会話もネコのことが多かったと思う。
叔父はもともとネコ好きという訳ではなかったようだけど、叔母のおかげで、すっかりネコのいる暮らしにはまり、家にいる時は、いつも膝の上にネコを抱いていた記憶がある。

うちのネコ2匹をもらってきた友人夫妻にも子供はいない。
旦那さんの方は出張も多くて、初めての海外暮らしで、家に1人になる奥さんとしては、やっぱり家にネコがいるのといないのとでは、気持ち的に違うに違いない。
別の部屋とは言え、同じ家の中に夫も義母もいる私でさえも、やっぱりネコがいると1人じゃない感じがして、ほっこりする。
夫とケンカして、何日も口をきかないこともあるけど、そういう時でも、ネコがいれば寂しくないし、なんとなく気持ちも落ち着く。

よく「子は鎹(かすがい)」というけれど、我が家にとっては「ネコが鎹」で、今となっては、ネコのいない暮らしは考えられない。
私の人生で、これほどまでにペットが暮らしの大きな部分を占めたことはなかったけれど、今の私のパクセーでの生活を支えてくれているものの1つは、まちがいなく我が家のネコ2匹なんだと思う。

~ネコの日に寄せて~

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