ダンボール箱の災難な一日

玄関の前に、誰かが立っている。
インターホンの音はしなかった。
それでも、ずっと黙って立っているから、
たぶん、うちに用事があるんだろう。

「うちに何か用ですか?」と、
インターホン越しに聞いてみる。
「すいません。鈴木さんのお宅ですか?」と、
玄関の前の誰かは言う。

うちは鈴木じゃない。
でも確か、鈴木さんなら向かいの家だ。

インターホン越しにそう伝えると、
「すいませんけど、連れて行ってくれますか。」と、
玄関の前の誰かは言う。

変だな。

うちのインターホンにはカメラがあって、
誰が訪ねて来たのか見えるようになっている。
でも、何も映っていない。
映っていないのに、声は聞こえる。

まあ、玄関を開けてみればわかる。
そう思ったけど、開けてもわからなかった。
さっきまで話していたのに、誰もいない。

気になって、家の周りを見回ってみる。
やっぱり、誰もいない。
ただ、ダンボール箱が落ちているのを見つけた。

片手で持てるくらい小さい。そして、軽い。
住所が書いてあるのを見てみると、
向かいの家の鈴木さん宛てだった。

そういえば、昨夜から風が強い。
この軽さなら、風で飛ばされることもあるだろう。
ダンボール箱には、腕も無ければ、指も無い。
それじゃ、インターホンも鳴らせないわけだ。

向かいの家のインターホンを押す。
「すいません。鈴木さんのお宅ですか?」
「はい。」
「お届け物です。」

落ちているのを見つけて届けたんです。
たぶん、置き配にしたのが風で飛んだんでしょう。
そんな立ち話を少しして、箱を渡した。

まだ風は強い。そして、寒い。
こんな寒い時に外で待たされたら、
ダンボールだってしんどいに違いない。

今度、通販で何か買うなら、置き配にするのはやめておこう。

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