空の雲への帰り道

「また、ずいぶん久しぶりだね。」と、
空で待っていた雲が、不満げに言う。

「日が照らないから、空に上がりづらくてね。」
まだ日が短いし、水面も冷たい。
空の上まで蒸発するには、
この寒さではなかなか難しい。

「ただでさえ、誰も来なくて寂しいんだから。」と、
仕方ないと知ってて、それでも雲は言う。
「そりゃ、寒いからでしょうよ。」
「そうだけどさあ。」

陸も寒ければ、空も寒い。
たちまち凍って、すぐに落ちてしまいそうになる。

「何か温かいものでも飲みたいね。」と、
無理だと知ってて、つい言ってしまう。
「無理だって。火が焚けるわけでもあるまいし。」
「そうだけどさ。こんなに寒いのになあ。」

少しの間、空に浮かぶ。
雲がいくらか大きくなったところで、
みんなまとめて、地上に帰る。

「おいおい。こんな寒いのに、雨まで降ってきたよ。」と、
下で歩いていた人が言う。
「我慢しなって。降らなきゃ降らないで文句言うくせに。」
「そうだけどさ。こんなに寒いのになあ。」

「何か温かいものでも飲みたいね。」と、
その人は、自動販売機の前に立つ。
ガタン、と出てきた缶コーヒーで、
少しの間、休憩する。

ふぅ、と大きく息を吐く。
息はたちまち白くなると、
空に上がって、見えなくなった。

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