空を見れば、変な星がいっぱい。
きれいな夜空だった。
雲がないから、星がいっぱい見える。
…とはいえ、街灯の明かりがあるから、
今見えてるのは、とびっきり明るい星だけなんだろう。
山の上から見た夜空は、もっときれいな夜空だった。
明かりがないから、もっと星がいっぱい見えた。
とはいえ、街から見る夜空もきれいだ。
街の明かりの上にある星というのも、趣があるものだ。
「見えてない星も、そこにいるんだろ。」と、
目が合った明るい星に言う。
「ああ、隣にいるよ。」と、明るい星が横を見る。
「隣って言っても、光の速さで何年かって距離だけど。」
「もっと光れば、ちゃんと見えるのにね。」
「本当だよね。せっかくきれいなのに。」
「変なの。」
「変なの。」
そのとき、流れ星が落ちた。
たしか、願いごとを3回唱えれば叶うんだったか。
そんなの無理だと思う。だって、一瞬だもの。
「ちゃんと見たか。」と流れ星が言うから、
「見えたよ。きれいだったな。」と返事した。
「そりゃよかった。光った甲斐があったってもんだ。」
そう言ったきり、流れ星は燃え尽きて消えた。
「光るにしたって、あんな一瞬っていうのもねえ。」と、
暗い星のひそひそ話が聞こえる。
「ちょっと光って消えるくらいなら、ずっと暗くてもいいのに。」
「変なの。」「変なの。」
しばらくして、家に帰ってきた。
ポケットの中には、缶コーヒーが1本。
これ1本買うために、ちょっと出かけただけだった。
星としゃべっていたら、つい長くなった。
「あったか~い」缶コーヒーだったのに、ちょっとぬるい。
ふと思い立って、机の引き出しを開けた。
そして、絵日記帳を引っぱり出してきた。
夏休みに書こうと思って買ったやつだけど、
2~3ページで飽きてしまって、だいぶ余っている。
10月20日 はれ
きれいな夜空だった。
雲がないから、星がいっぱい見えた。
そして、星空の絵を描いた。
明るい星も、暗い星も、同じような黄色い点で。
仕上げに、流れ星をひとつ。
描きあがった絵日記を、ベランダに出て、空に向けた。
「絵日記だってさ。」と、明るい星のひとつがこっちを見る。
「ちゃんと、暗い星も描いてるよ。よかったじゃないか。」
「でもさ、」暗い星が不機嫌そうに言う。
「どうせ、一番大きく描いてあるのは月なんだろ?」
「いや、それがさあ。」笑い出すのを我慢して、月が震える。
「月はどこにも描いてないんだよ。忘れてるのかな。」
「変なの!」「変なの!」
夜空は、笑い声でいっぱいになった。
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