おもちゃ天国

森の中。
それも、ただ森を通り抜けるだけなら見えないところ。
ちょうどいい高さの切り株の上に、
ぽつんと、ダンボール箱が置いてある。

誰が言い出したのか、この場所は、
「おもちゃ天国」と皆が呼ぶ。

すぐそばに看板が立っていて、
今は文字が消えちゃって読めないけど、
そこに書いてあったのが「おもちゃ天国」だったそうだ。

で、箱の中には、おもちゃが入っている。
ベーゴマだったり、竹とんぼだったり。
ちょっと懐かしい感じのおもちゃだ。

不思議なのは、一回遊ぶと、
そのおもちゃが消えてしまうことだ。
しばらく遊んで、箱が空っぽになったら、
「ちょうど日も暮れるし、帰ろうか。」と、
皆それぞれ家に帰っていくのだ。

でも、しばらくしてからまた来ると、
また、おもちゃが入っている。
だから、ときどき思い出したように遊びに来ては、
箱を空っぽにして、また帰るのだ。


ある日。
おもちゃ天国と呼んでいたあの場所の、
字が消えていた看板が、書き直されていた。

“おもちゃが天国に行く方法”
この箱の中のおもちゃは、幽霊です。
でも、捨てられるまで、一度も遊んでもらえなかったおもちゃです。
このままでは浮かばれません。一度でも、遊んであげてください。


なるほど。
それで、一回遊んだら消えたわけだ。

その日、箱の中には竹とんぼがひとつだけあったから、
できるだけ、高いところを目がけて飛ばした。
ちょうど昼と夕方、どっちの色もある空に、
竹とんぼが飛んでいって、消えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?