同じ顔の女
母方の家系は女の血が強い女系家族で、似た顔の親族が多い。
祖母は3姉妹で、長女が女子1人、次女(祖母)が女子2人、三女が男子2人を産んだ。
生まれてくる女たちは、だいたい顔が丸くて大きくて目が細く、体も乳もでかいという身体的な特徴を持つ。並ぶと一発で親族だとわかるくらい似ている。もちろん私もこれに該当する。
さらに、長生きという共通点もある。3姉妹を産んだ曽祖母は91で亡くなった。当時の日本女性の平均寿命が82歳だったことを考えると、長寿と言っていいだろう。10年前に亡くなった祖母も93だった。母曰く「●●家の女はボケてからが長いのよ」。母は現在75だ。病弱でしょっちゅう入退院を繰り返しているものの、精神的にタフなので彼女もボケた後に長生きするタイプだろう。
丸顔の女たちは結婚して苗字を変え、同じ顔の女を産み、長生きする。その娘たちが嫁ぎ先でまた同じ顔の女を産む。
などと書くと、結構怖いし気持ち悪い。しかし、というか当たり前なのだが全員が必ず女を産むというわけではない。実際、祖母の妹と伯母(母の姉)は男子2人を出産している。
ただ不思議なことに、彼女たちは母方の家系の身体的な特徴を受け継いでおらず、小柄で顔も小さく細身だった。親族で写真を撮ると、2人だけいつも浮いていた。彼女たちは70代で亡くなった。
どうやら母方の家系には丸顔の女を産む長命の遺伝子と男子だけを産む短命の遺伝子が存在するらしい。もし長寿の理由が「女子をたくさん産むため」だとしたら、同じ顔の個体を増やすためのシステムが体の中に組み込まれているということになる。遺伝子とは本来そういうものなのだろうが、まるで呪いのようにも感じられる。
親族たちと同じ顔で生まれたにも関わらず、私は子供を作らなかった。
40を過ぎたあたりから、鏡の中に自分が産まれるずっと昔から知っている誰かの顔がうつるようになった。体のコアに組み込まれた「同じ顔の女を増やしたい」という明確かつ強烈なその人の意志は、私を許してくれるだろうか。