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コロナ禍の孤独を忘れさせてくれたラジオ

私の住んでいる福岡県で最初の緊急事態宣言が発令された頃、私は仲の良い友人4人とオンライン飲み会をしていた。
お互いの近況やはまっているドラマの話をして、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

「コロナで大変だけど頑張ろうね。おやすみー」

夜も深くなり心地よく酔いが回ったところで、オンライン飲み会はお開きとなった。

パソコンの電源を落とすと、一人暮らしのワンルームの部屋は静寂に包まれた。そして私は今までに感じたことのない孤独感に襲われる。

次に皆に直接会えるのはいつだろう……それまでずっと私はこの部屋で一人過ごさないといけないのかな……
さっきまでの楽しい気分は一変し、寂しさと不安でなかなか寝付けなかった。


気分転換にラジオを聴くことにした。

「和牛のモーモーラジオー!」

お笑い芸人の和牛がパーソナリティーを務める番組が流れてきた。深夜の時間帯に2人の声が心地良い。

お笑い芸人のラジオというと、番組のコーナーに大喜利のような形式でリスナーがネタを投稿するイメージが強かったが、モーモーラジオは違った。
女性リスナーが多いこの番組に寄せられるお便りは、日常生活で腹が立った話や和牛への相談のような内容が多かった。

そして、それに対する2人の回答やアドバイスが、とにかく面白い。さっきまでの沈んだ気持ちはどこへやら、時折始まる即興のミニコントに思わず声を出して笑ってしまった。

テレビで見るスマートなイメージとは違い、ラジオで話す和牛の2人は人間臭さに溢れていた。そしてどの言葉にも、リスナーの悩みに真剣に答えようとする誠実さが伝わってくる。
面白い上に誠実……女性人気が高いのも頷ける。


私の中でモーモーラジオを聴くことが、週に1度の楽しみになっていた。そして次第にこんな気持ちが芽生える。

「私もお便り書いてみようかな……」

早速ネットでラジオ番組へのお便りの送り方を検索する。
ラジオ番組へたくさんのネタを投稿する人を指す「はがき職人」という言葉があるが、現在はお便りといってもメールが主流だという。

メールの冒頭には、ラジオネームを書かなければならない。万が一読まれた時のことを考えると、人と被らない、すぐに自分だと認識できる名前にしたい。
私は生まれてからずっと福岡に住んでいる。そしてチャームポイントは広い額だ。

「よし、ラジオネームは“博多のおでこ”にしよう」

次に考えるのはお便りの内容だ。
幸いにも、私の周りには一風変わった人が多かったため、書きたい内容はすぐに浮かんだ。しかしその状況を文章にするのは、かなり難しい。
登場人物の紹介、腹の立った出来事、和牛への質問。丁寧に説明すると長くなり、簡潔にしすぎると状況が想像しにくい。

番組の放送時間は30分。1通のお便りに割ける時間を考えると、300字程度の文章に、そのすべてを入れ込まなければならない。
書いては消し、書いては消し。一文の長さをどれくらいにして、どこに読点を打てば読みやすいか。和牛の2人に読まれることを想像しながら、何度も声に出して読み返した。

なんとか納得のいく文章が完成し、番組のメールアドレスに送信する。なんとも言えない達成感があった。
しかし1通送ってすぐに読まれるほど、甘いものではない。1回の放送で読まれるお便りは2~3通。和牛の人気を考えると、すぐに読まれる可能性はかなり低い。

「さて、次は何を書こう」

普段の生活でも、お便りに書くネタを探すことが日課になっていた。職場でモヤッとすることがあっても、良いネタができたと思えば少し気持ちが楽になった。

2人のトークが聴ける楽しみに、もしかしたら自分のお便りが読まれるかもしれないというドキドキ感がプラスされ、週に1度の放送時間は私にとってさらに楽しみなものになっていった。

お便りを送り始めて2か月ほど経った頃、ついにその時が訪れる。



「ラジオネーム……博多のおでこさん」



「うわぁー!!!」

思わず悲鳴をあげてしまった。心臓がドキドキして、変な汗が出る。
ボケの水田さんが私のお便りを読んでいる。ツッコミの川西さんが私の悩みに答えている。2人のミニコントが始まった。やっぱり面白い!

感動と興奮と少しの恥ずかしさで、その日はなかなか寝付けなかった。


コロナ禍でまだまだ先の見えない状況が続いている。時には孤独や不安に押しつぶされそうになることもある。私たちは日常のささやかな幸せを見つけながら、この苦境を乗り越えていかなければならない。

私はラジオという小さな幸せを見つけた。今日もラジオを聴きながら、穏やかな日常が戻ってくるのを静かに待ちたいと思う。

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