空想アラフォー女子4
ガトーショコラにしよう。レシピをスマホで探し、エプロンをつける。ケーキを作るとなぜか落ち着く。悩みや怒り、私をケーキが作りに向かわせる。
24歳の時に娘は産まれた。大学進学とともに田舎から都会にでてきた。大学卒業後、就職。簡単に言えばデキ婚だった。元夫は二歳年上。いきつけのバーの店員だった。結局7年間は一緒に暮らしていたが離婚。原因は、元夫の不倫。相手はバーの客だった。20代そこそこの女に手を出したのは腹が立ったし、当時は理解出来なかった。ただ、今ならわかる。そうさせた責任はわたしにもあった。経済力は私の方が明らかにあった。仕事と育児、この二つだけ常にギリギリだった。元夫には父になる事を求めていたし、それに答えないいや、私の答え通りにならない事に失望をしていたのである。なぜ私だけ辛いの。当時はそんなことはばかり考えていた。殺伐とした家庭。他の女に、安らぎを求めるのも、今思えば当然のような気がする。気持ちの余裕が無かった。
チョコを湯煎しながら、思い出した。母の『あんたも悪いとこあんだからね。』。当時は納得なんて出来なかった。今はその言葉の意味が妙に刺さるときがある。味見をする。苦い気持ちになれど、チョコは甘い。
生地作りのために、メレンゲをつくる。娘は中学に入り不登校になった。中学1年生の頃は、部活に入りいわゆる普通の学校生活を送っていた。ある時部活の顧問とぶつかり退部。クラスメイトとの折り合いも合わず、気がつけば不登校になっていた。職場にかかってくる学校からの電話。繰り返す教師との面談。正直ダルい。親であれば不登校を解決するべきなんだろう。とは言え当の私が不登校児だった。田舎特有の寛容さで育った私は気が向きゃいくスタンスだったのだ。行きたくなきゃ行かなければイイ。現に、私はそこそこの生活を営む能力を備えている。ただ、学校に行って欲しい。娘のため?この煩わしさから解放されたいため?
できたメレンゲと生地、チョコを混ぜる。晴れてシングル子持ちになった私は必死だった。子供に不自由はさせない。最低大学にいけるようにとにかくお金は貯めた。私には複数のパトロンがいる。会社の経営者達だ。彼とのやりとりは楽である。会っているその場を楽しませるだけ。恋や愛の煩わしい概念は皆無だ。例えば相手が食事を楽しむだけのアバターみたいな役割でお金と美味しいご飯にありつく。たまには食事の席に娘も連れて行くのであるが、それはそれで奮発される。家族疑似体験なのか知らないし興味もない。すでに大学卒業までの資金は貯まった。第二の人生への準備は着実に進んでいる。
生地を型に流し込む。以前友人にこんな事を言われた。『そりゃ学校行かなくなるよ。大人の世界知ったら。周りの中学生なんてガキにしか見えないでしょ。』 環境が作り出したもの、か。母子家庭で生き抜くのは甘い話ではない。金はあった事に越した事はない。必死にやってきたし結果も残した自負はある。ただ、この言葉を思い出しては、チクチクと痛むときがある。
あのときああすればもっと、今より幸せだったのか。出来上がってからしかそんな事はわからない。
最オーブンに入れて焼き上がりを待つ。ケーキ作りは良い。最終的には完成する。どんなに煩わしい作業も、必要だったと納得できる。時間がくるのを待っている。準備はできている。甘くて美味しければいいな。40以降の第二の人生を待ち焦がれている。
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