夫との初めての旅行は南紀でした
今から16年前、私は夫と付き合い始めました。
といっても、その関係性はハッキリしていませんでした。
前妻に裏切られ、人間不信になっていた当時の夫。
前夫を裏切って、夫を追いかけた私。
当時の夫は、人間関係にとても慎重でした。
ほぼ同棲であったにもかかわらず、私に本音を見せるということは、なかったように思います。
そんな夫でしたが、その年の10月、連休が取れたから旅行にでも行こうか、と言いました。
もちろん、即OKです。
夫は旅慣れていないので、私がすべてプランを立てました。
行先は、すぐに決まりました。
和歌山県・南紀です。
夫に、洞窟の温泉を体験させてあげたい。
もちろん宿は、ホテル浦島です。
洞窟の温泉のみならず、旅館内にはいくつもの温泉・源泉があります。
南紀・那智勝浦までは、自宅から車で3時間半ほどの道のりです。
阪和自動車道みなべIC(当時の終点)まで行き、そこから国道42号線…というのが一般的なルートです。
が。
往復同じルートで行くのは、楽しくない。
どうせなら、往路は十津川から新宮へ抜ける山道を、そして復路でのんびり海沿いをドライブしよう、と決めました。
このルートです。
山の中を走るので、自然を満喫することができます。
というわけで、当日の朝。
車に荷物を積み込み、出発です。
夫もテンションが上がっていたようでした。
ところが。
奈良県五條市に入ったところで、国道168号線が一部通行止めになっていることがわかりました。
地図を見て、とりあえず高野山~龍神スカイラインを通ろう、ということになりました。
このルート、地図だけ見れば何ともなさそうですが…
実際車で走ってみると、相当な山道です。
それでも、どうにか高野山を経由して龍神まで行くことができました。
あとはここから、田辺市へ出て、海沿いを南下すれば那智勝浦町には到着できます。
がっ。
十津川の景色をあきらめきれなかった私は…
地図を見て、国道425号線を通ることにしました。
まぁ「国道」なんだから、大丈夫だろう。
そう思ったのが、大きな間違いでした。
このルートは私が運転したのですが…
まず道が細い。
そして、普段車が通る形跡がない。
ガードレールもない細い道は、ひとつ間違えば川に落ちてしまいそうでした。
対向車が来たらどうしよう、と心配しましたが、とうとう対向車は十津川に到着するまで来ませんでした。
後でわかったことですが、国道425号線は「酷道」に認定されていたようです。
それも、日本三大酷道のひとつになっていました。
十津川に到着した時は、心の底からほっとしました。
酷道425号線を私が運転していた頃、助手席の夫は気持ちよさそうに眠っていました。
いや、寝てくれて正解かもしれない。
そしてようやく、那智勝浦町に到着。
半島にあるホテル浦島までは、船で向かいました。
夫は初めての光景に、かなりワクワクしていたようです。
そして、洞窟の中にある温泉「忘帰洞に、夫のテンションがダダ上がり!!
「あの温泉、すごい!」
少年のように目を輝かせていた夫の姿を、今も覚えています。
翌日は、南紀観光です。
朝風呂に入ってスッキリし、車で出かけたのは「那智の滝」です。
私は何度も南紀旅行を経験していますが、夫は何もかもが初めてでした。
那智山飛瀧神社境内にて。
私はもともと、寺社参拝が好きであちこち訪れていました。
ですが夫は、伊勢神宮に行ったことがある程度でした。
初めての那智山で、夫は見聞きするものすべてが感動だったようです。
那智山を後にして、次に向かったのが橋杭岩です。
自然が作り出した不思議な光景に、夫は息をのんでいました。
こんな景色があるんや…と。
旅の最後に、白浜を訪れました。
この旅行をきっかけに、夫は少し変わりました。
笑顔をよく見せてくれるようになりました。
そして、少し私に本音を見せてくれるようになりました。
前よりも警戒心が薄れてきた、という感じです。
この頃、夫は職場の人間関係に疲れていましたが…
この旅行の後、配置換えになり、少し気が楽になったようでした。
熊野の神々のおかげかもしれません。
もう16年も前のことになりますが、夫と初めて旅したことを、今もよく覚えています。
特に国道425号線のくだりは、今も夫と笑い話になっています。
今年は訪れていませんが、ここ数年は毎年南紀に出かけていました。
何度も訪れたくなる、思い出の地。
私と夫にとって、それは南紀なのです。
南海トラフの動きは気になりますが、また訪れたいと思っています。