出演辞退の理由
またまたお久し振りです。
確定申告やら何やらで、ここのところバタバタしています。なかなかコンスタントに記事が書けないのが辛いですが、まだ読んで下さっている方がいると信じて、不定期でも書き続けることにします。
ご存じのように、僕は演劇ユニットFavorite Banana Indians(FBI)の代表であり、脚本家・演出家でもあります。自分のユニットで公演を行おうと思ったら、まずは企画書を作り、脚本を書き、俳優さんやスタッフさんにオファーをします。勿論、先方にも都合というものがあります。既に同じ期間、または近接する期間に他の仕事が入ってしまっていて、両方受けることは困難な場合は、当然断られてしまいます。これは、ある意味致し方ないことです。
一番切ないのは、スケジュールがOKでありながら、断られてしまうパターンです。
大きく分けて2つの理由があります。
1つ目は、条件が会わない場合です。例えば、報酬の支払い方法で、こちらはチケットバック方式(売れたチケット1枚につき、一定の額を払う方式)を提示したのに対して、先方がステージギャラ(1ステージにつき一定の額を支払う方式)を提示したとか、1ステージのギャラの金額が折り合わないとか、そういったことです。こういう時は、僕の方でもできるだけ相手の求める条件で折り合おうと努力します。あちらが折れてくれたり、こちらが全面的に譲歩したりすれば、何とか出演にこぎ着けることができます。結果として、こちらの懐が予定していた以上に痛んだりしますが、これも致し方ないことです。
もう1つのパターンが、一番悲しいです。それは、こちらが提示した企画書や脚本を見た結果、スケジュールや条件面とは関係なく断られてしまう場合です。事務所が間に入る場合もありますし、フリーの人の場合は、その人個人の判断です。こういう時、必ずと言っていいほど、詳しい理由は説明されません。
「検討した結果、今回は出演を辞退させていただきます」
このひと言で終わってしまう場合が殆どです。
これは、遠回しに「企画が面白くない」「脚本がつまらない(出来が悪い)」と言っていると捉えてほぼ間違いないでしょう。自分(または所属の俳優)のイメージに合わないという場合もあるでしょうし、単純に「好みではない」「出演する価値がない」と思われた場合もあると思います。
いや、何らかの反応があればまだいい方です。
こちらから送ったオファーのメールやLINEに、いつまで経っても返事が来ないということもざらにあります。これは、僕自身が「無視していいレベル」と思われてしまったと考えられます。社会人としてどうなのよ?ということなのですが、実際には平気で無視する俳優は結構多いのです。
いずれにせよ、脚本家の僕は、率直に言って深く傷付きます。
だって、脚本を書く時には、身を削る思いで、それこそ「全集中」で書いています。「書く」というよりも、何かを「生み出す」という表現の方が当たっているかも知れません。本当に産みの苦しみで、凄い時間と労力と精神力を使って、漸くのことでこの世の中にお披露目するのです。
つまり、作家は全人格をかけて、作品を生み出しているのです。
それを「面白くない」「出来が悪い」「自分が出る価値がない」と判断されてしまうということは、作家にとっては、全人格を否定されたに等しいのです。
勿論、俳優の方にも、作風の好き嫌いはあるでしょう。ファンタジーより人情コメディの方が好きとか、バッドエンドの作品はできるだけ避けたいとか、そういったことです。また、特に「当たり役」を経験した俳優は、自分の魅力がどこにあるのか、自分のファンは何を求めているのかを客観的に把握していますから、自然とそれを再現したいと思うでしょう。
まだ比較的若手で、舞台や映像の経験が少なければ、とにかくどんなものにでも出演してみる、どんな役でも与えられたものはやり遂げるという姿勢で臨むと思いますが、少し経験を積んでくると、先に書いたような理由で、出演する作品を選ぶようになるのです。(そこに、主催や演出家、共演者との相性の問題が関係してくる場合もあります。)
そういった俳優側の事情は分かった上で、それでもスケジュール等の物理的な理由以外で出演を断られてしまうと、脚本家としては本当にきついです。まだ何も始まっていないのに、「つまらない作品」「価値のない作品」という烙印を押されてしまったようで、本当にテンションが下がりますし、これを本当にお客様の前で披露してもいいものなのかと、非常に不安になります。
たかが俳優の好みの問題で、こんなに精神的に振り回されるのもどうかと思うのですが、何度経験してもこればかりは慣れません。
毎回、深く傷付くのです。
これはちょうど、本番中に客席で眠りこけているお客様を発見してしまった時の、とても言葉では言い表せない絶望感に通じます。
深く傷付くのにとどまらず、あまりのいたたまれなさに、その場からすぐに消えてしまいたくなります。
と同時に、それでも「面白い」と思ってくれて、言葉にして伝えてくれた俳優やスタッフがいてくれると、心底ホッとします。これは上演する価値のあるものだな、受け入れて下さるお客様に出会えそうだなと、気を取り直すことができます。
趣味や道楽でやっているのなら、こんなには傷付きません。
本気で命をかけているから、それを真っ向から否定された時のダメージが凄いのです。
100人いたら100人が絶賛するようなものはありません。
しかし、せめて100人中90人位の人が絶賛し、熱狂してくれるようなものが作りたいと思います。そういうものなら、大抵の俳優は、スケジュール等の物理的な要因がクリアになったら、「是非出演させて下さい!」と言う筈です。
今、本当に悔しい思いをたくさんしています。
心が折れそうにもなります。
ですが、出演を希望する人達、見たいと思って下さる人達の思いを無駄にすることはできません。
そういう人が1人でもいるならば、僕は立ち上がろうと思うのです。
(写真 宮本よしひさ)
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