PayPalのビットコイン決済対応のなにがすごいのか10の理由
PayPalがビットコインやイーサリアムなど暗号資産(=仮想通貨)による決済に対応するとのことで、界隈はかなり盛り上がってます。関連する暗号資産も軒並み高騰していて、たしかにこれは歴史的な大ニュースだと思います。なにがすごいのかまとめてみました。
1. 経済規模と波及効果
法定通貨に比べれば暗号資産まだまだ経済規模は小さいとはいえ、現時点でもビットコインだけで25兆円弱、イーサリアムも5兆円弱と、なかなかの規模まで成長してきています。10年前に、「無」から生まれ、ただのデジタルデータにこれだけの価値がついてしまったというのは、インターネットで流行した「フリーミアム」から、ブロックチェーンによって「価値のインターネット」が始まっていることを示唆しています。
これまで暗号資産の交換先がほとんどなかったのに、PayPalを通じれば世の中のほとんどのモノ・サービスが買えるようになります。PayPalは加盟店2600万店以上、世界に3億人の利用者がいるので、暗号資産に馴染みがなかった事業者や利用者に、一気に広がっていくことは間違いありません。PayPal傘下の決済アプリ「Venmo」はソーシャル世代に人気で、同様の展開が始まると予告されていて、世界中の全世代に波及効果が出ることでしょう。
2. 法定通貨から暗号資産への流れが加速する
いままでは、一度暗号資産に変えてしまうと、基本的にはモノやサービスと交換するには、また、ドルや円などの法定通貨に替えてから決済する必要がありました。せっかく法定通貨を暗号資産に替えたのに、また法定通貨に戻すのはナンセンスなのですが、しかたがなかったのです。(厳密には色々あるのですがざっくりいうと)暗号資産から法定通貨に替えた時点で資産価値が上がっていると、雑所得による税金や取引所の手数料が取られるので、法定通貨に換えてまでモノやサービスを買う意欲というのはなかなか湧いてこなかったのです。
しかしながら、今回PayPalが暗号資産による決済に対応することで、暗号資産のままでモノやサービスを購入できるようになるため、個人レベルでは、これまで以上に法定通貨から暗号資産への交換がするときの躊躇がなくなってきます。私たちが気軽にSUICAなどのデジタル通貨にチャージする感覚で、暗号資産がもっと身近になってくるのは間違いないでしょう。
3. 暗号資産の使い道が大きく広がる
PayPalの対応以前と以後で「使い道」の幅が大きく変わりそうです。誤解を恐れずいえば、対応以前は、「暗号資産の使い道は暗号資産との交換だけだった」と、のちに振り返られると思います。周りを見渡しても、暗号資産は投資や資産運用の目的がほとんどであり、これまでは通貨というよりも「株」のようなものでした。
ただ、PayPal対応以後は、モノやサービスなど、使い道は無限大に広がります。使い道を例えるなら、これまでは「歩道」が急に5車線に整備された「高速道路」が完成したくらいの広がりを見せることになります。投資や資産運用といった一部の人のためのものから、PayPalを通じてモノやサービスとの交換に使えるようになると、スマホ人口と同じくらいの人々が暗号資産を通じた価値交換ができるようになり、法定通貨並に暗号資産の利用価値が急激に向上することになります。
暗号資産はモノやサービスの価値交換の媒体として、実生活に活用してもいいんじゃないかと、世界から認められことと同義です。この流れはさらに加速していくでしょう。
余談ですが、PayPalの前身であるX.comは、いまをときめくイーロン・マスクが創業した事業で、いったいいくつ世界を変える気なんだとため息が出ますね。
4. EC事業者から見た今後の世界
私は日本発の越境ECを運営する会社を経営していますが、EC事業者から見ても、今回のPayPalの動きは、脳天に衝撃を与えるものでした。
PayPalは、英語圏でモノやサービスを販売するECを展開している事業者のほとんどが加盟店となっている、定番中の定番の欠かせない決済サービスです。事業者が暗号資産による決済を使うためには、(おそらく)かんたんな操作をするだけで対応できてしまう作りになるはずです。端的に言えば、管理画面で「暗号資産でも決済させる」を選択するだけで、いま売っているモノやサービスを、瞬時にお客様に暗号資産で買ってもらえるようにできるわけです。
ちなみに、これまでも、事業者が個別に頑張ればビットコイン決済を実装することはできました。独自実装の場合、(ほとんどの人にとって未知の)暗号資産を安全に管理するためのコストやリスク、慣れない経理・会計・法務面などの学習コストで負担が大きく、ほとんどの場合、それに見合うリターンは無さそうということで経済合理性が合わなかったのです。暗号資産系の決済ASPを利用しても、対応するための開発費用やトランザクションごとの手数料を考慮すると、Stripeなどによるクレジットカード決済や(既存の)PayPal決済を超えるメリットはなかなか出づらい状況でした。
それでも暗号資産の未来に賭けて対応するチャレンジャーも多くいましたが、伝え聞く決済額からすると、なかなかに手を出しづらい状況が続いていました。そんな中で、PayPalが対応してくれるなら、開発工数はほとんど掛からないだろうし、事業者側は円やドルで受け取ることで、暗号資産の管理コストや経理・会計・法務面を一挙に解決してくれるので、二の足を踏んでいたEC事業者にとっては渡りに船というわけです。
例えるなら、暗号資産はそれぞれが1つの国の通貨のようなものなので、円とドル対応にしばるより、ペソもリラもマルクもなんでも対応していたほうが、モノやサービスは売れるし、裏側では、普段モノを仕入れるための円などの法定通貨に瞬時に替わるなら、事業者側も取り扱いに慣れているので安心ということになります。
5. PayPalのマネタイズポイントは2つある
暗号資産による決済によって、PayPalはどんな利益を得るのでしょうか。PayPalのビジネスモデル視点でみると、シンプルに決済手数料がベースになるでしょう。いまのPayPalのビジネスモデルと変わらず、モノやサービスを決済する時のトランザクションごとに利用者や事業者から手数料を数%得るというモデルです。
暗号資産の元となっている技術であるブロックチェーンは、ざっくり言うと、現在のところ真面目にすべてのトランザクションをブロックチェーンに乗せると決済手数料は、いまのクレジットカードやPayPalよりも高くせざるを得ないのですが、利用者が多い決済サービスであれば、一定額をまとめてブロックチェーンに乗せることで、手数料はほぼタダ同然にできます。この辺りの仕組みはシバタナオキさんが分かりやすく解説してくれていますので参考にしてみてください。そうすると、PayPalは既存のガチガチにセキュリティの高いデータベースを運用・保守するよりも安く決済サービスを提供できるので、PayPal内でも、より利益率が高い決済チャネルを持つことになると思われます。
そして、PayPalにはもうひとつの美味しいマネタイズポイントがあると考えます。インサイダーにならない形で、PayPalは自身でビットコインやイーサリアムを大量購入しておくことで、決済対応による暗号資産による利益も得られるはずです。PayPalほどの規模はなかなか出てこないかもしれませんが、自社事業が暗号資産に対応することで、暗号資産自体の価値を高められるような企業は、これから同じように対応していく経済合理性が出てきそうです。
今回の決済対応の引き金になった、Twitter創業のジャック・ドーシーのSquare社でも、「スクエア、53億円のビットコインを購入 総資産の1%相当 」こちらのように同じような動き方をしていますね。銀行に預けているより暗号資産の市場規模が加速すると読んだ企業による、「450億円の現金をビットコインに変えたナスダック上場企業」このような動きも増えてくるでしょう。
6. ハッキングリスクについて
暗号資産といえばハッキングリスクのイメージが強い方も多いですよね。巨額の資金が流出するなんだか怖いものということで、一部にはPayPalの今回の動きを心配する人もいるかと思います。
サービスがローンチされてからの確認が必要ですが、おそらくは個人がPayPal内に暗号資産のアドレスを持つわけではなく、PayPalが仮想的に割り当てる個人ごとの暗号資産の口座があるつくりになっているはずです。こうすることで、個人が暗号資産のアドレスを紛失したりして、ありがちな二度と取り出せないといったことは起こらなくなります。ただ、もちろんこれまで通りPayPalへのログイン情報を第三者に教えてしまったら、口座の中にある法定通貨や暗号資産は盗まれてしまいますが、それはこれまで通りで変わらずなので、ユーザー体験的には問題ないでしょう。
ちなみに、決済対応する事業者は、暗号資産すら触ることなく、受け取りは円やドルになるので、安全面はこれまでと変わらずです。
問題は、PayPalがハッキングされるリスクですが、まあ、これはPayPalはすでに超巨大な銀行・金融業をネット上でもっとも長く行ってきた企業のひとつなので心配は無用でしょう。暗号資産だから特別にハッキングされやすいということでもなく、コールドウォレット対応などセキュリティ面では万全を尽くしてくるで、私たちが心配するまでもないと思われます。
7. ほかの決済サービスはどうなるか
GAFAを除くと、英語圏の決済サービスはクレジットカード決済のStripeとPayPalが二分しています。もし今回のPayPalによる暗号資産対応で、競争優位性を持つなら、ほかの決済サービスも黙ってはないだろうと思われます。GAFAが対応するかは、既存の仕組みの勝者が既存の仕組みを壊す行為なので、「イノベーションのジレンマ」を乗り越えられるかにかかっているでしょう。いずれにしろ、時代は動き出し、GAFAもどこかで我慢できなくなって、大きくベットしてきそうな気もします。そうすると、雪崩のように決済に暗号資産対応は当たり前の時代になることでしょう。
8. 法定通貨のデジタル化と崩壊への足跡
日本も含め、各国がデジタル通貨に舵をきって、「CBDC(=中央銀行デジタル通貨)」がホットトピックになっています。現状でも、法定通貨も世の中に出回っている紙幣や硬貨の金額は実は大した数ではなく、金融機関などにあるデジタル上の通貨のほうがはるかに大きな金額です。そうしたデジタル通貨の仕組みを、暗号資産の根幹技術であるブロックチェーンで安価に作れてしまうので、根本からデジタル化してしまったほうが、効率的ということです。PayPalもこうしたCBDCに対応するための第一歩として、今回の対応・検証を進めてきている、という流れに見えます。
一方で、国が発行する法定通貨は、コロナ禍以前から、巨額の発行し続けていて(おもに金融政策・財政支出のための国債発行)、発行ルールが定まっている暗号資産側からみると、毎年毎年インフレが起こっているのです。
年間GDP550兆円の日本で、コロナ禍で国債70兆円の補正予算が出ました。こうなると、日本円の価値が薄まり、代わりにデジタルゴールドとも言われるビットコインの価格が上がってしまうのは、ある意味当然のことのように思えます。金(ゴールド)が高騰するのも同じ現象で、限りがあり魅力的な活用方法がある金やビットコインは、相対的に法定通貨と比べると、価値が高まります。
ただ、法定通貨同士で見比べると、コロナ禍で300兆円の国債を出したドルのほうが円よりもさらに価値が低まっており、なおも円高ドル安という状況が続いています。
法定通貨は各国の思惑でいかようにでも通貨発行ができてしまうので、ある意味だと暗号資産よりもガバナンスが効いていないじゃないか、という声もよく聞きます。
個人的には、コロナ禍であり、デフレが20年間続く日本はデフレ脱却までは思い切った財政出動のための国債発行は続けるべきと思います。経済活動を支えるために、いまのまま国債発行を続けると、法定通貨の価値が下がる未来には、暗号資産への資金移動が止まらなくなるはずです。
いずれはブロックチェーンによって発行ルールが明確かつ確実な暗号資産のほうが、国家ごとの胸先三寸で発行できてしまう法定通貨よりも、暗号資産が安定した基軸通貨になるような気がしてなりません。その時、法定通貨自体がオワコン化し、崩壊していてもおかしくない・・・と考えるのは思い過ごしでしょうか。
9. 独自デザインされた通貨の可能性
ビットコインに次ぐ時価総額のイーサリアムがPayPal決済に対応することで、この先もっと面白いことが起こる可能性があります。イーサリアムの特徴をひとことでまとめると、プログラムをブロックチェーンに置くことができるので、自由な仕組みで誰でも新通貨=トークンがいくつも作れてしまうことです。そのトークンの規格は、イーサリアムと同じ構造のため、やろうと思えばPayPalはすぐにイーサリアム上のトークンでも決済ができるはずです。
やや専門的な話になりますが、このイーサリアムの仕組みを活用したインターネット上に人間が開催しないシステムだけで動く銀行のようなサービス=DeFiという新しいプロジェクトが次々に生まれていて、そのDeFiの預かり資産は12兆円を超えたりしています。興味がある方は、DeFiを専門用語を使わずに解説した記事も参考になさってください。
ZOZO創業者・前澤さんが独自通貨を作ると発表したり、本田圭佑さんもファン向けコインを発行するように、あなたが作った通貨が、PayPalを通じてモノやサービスと交換できる時代がもうそこまで来ている・・・のかもしれません。
10. パラダイム・シフトの目撃者
最後まとめ的になりますが、今回の件、なにがすごいって、人類が長らく築いてきた通貨の歴史を、一気に変えてしまうパラダイム・シフトが起こっていて、私もあなたも、その目撃者のひとりということが、なんだかワクワクします。
PayPalに限らず、これからも次々と衝撃的なニュースが飛び出てくることと思います。今後も、ブロックチェーンによる世界の変革を歴史の証人者的な楽しみ方もしていきたいと思います。
長文ご覧いただきありがとうございました。今回のPayPal対応が社会を変える可能性がすこしだけでも伝われば嬉しいです。また、Twitterなどでお気軽にフィードバックお待ちしています。ではまた。
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