DAOを深掘りする話

めゃちゃくちゃ面白いDAO談義がYouTubeで配信されていたので、1年ぶりにブログを書こうと思いました。

西野と学ぶNFTとDAO【無料版】けんすう・尾原和啓・箕輪厚介と徹底討論 https://youtu.be/dxwJd4dIzo0

動画では色々なトピックが飛び交っていて、思わず議論に混ざりたくなっちゃいました。私パジの実体験の視点を加えつつ、トピックごとに考えをまとめてみました。

この記事は、ビットコインを元祖とする、組織のコア=特に資金調達や予算配分・予算執行をスマートコントラクトで表現することで人を介在しない”本格的なDAO”を前提に書いています。 動画内で語られるオンラインサロンやネットコミュニティの延長としてのDAOの実現を目指すとき、トークンエコノミーの設計やコンテンツづくりにおける投票のあり方が重視されるため、この記事内で書かれるスマートコントラクトを中心とした”DAO”とは別の話と感じてしまうかもしれません。あらかじめご留意いただき読み進めていただけると嬉しいです

みんなでコンテンツを作るのにDAOは向いている?

既存組織の中でDAO化する箇所によって、2023年時点で荒削りのブロックチェーン技術を活用したときの得意・不得意領域がはっきり分かれていると思います。 組織運営に必要なコア機能をDAO化=ブロックチェーン化するとき、
①資金調達(経営レイヤー)
②予算執行(経営レイヤー)
③コンテンツ制作(事業レイヤー)
のうち、いま2023年5月時点のイーサリアムのトランザクション処理速度やガス代考慮すると、①資金調達、②予算執行など、より大きな”価値の移転”を行う経営レイヤー寄りへのブロックチェーン活用がもっとも有用だと思います。

一方、③コンテンツ制作のような、細部にわたる小さな意思決定をスピーディーに行い、尖ったり偏ったアイデアを適切に舵取りすることが価値を持つ事業レイヤーでは、既存のトップダウン的アプローチに勝るようなブロックチェーン技術の活用は難しいかもしれません。むしろここは動画内でも語られていたAIの技術特性が強力な補完をしてくれそうです。

ただ、将来的にブロックチェーンを動かすガス代が1回あたり1円以下になるならば、コンテンツ制作視点で価値あるアイデアが炙り出されるような仕組みを構築できる可能性があると考えます。 民主主義的に、みんなの投票で平均的かつ凡庸な意思決定をすると、コンテンツ的には意外性もなく面白さもないので、方向性としては逆を目指すイメージ。みんなが思いもつかないような尖り偏ったアイデアがしっかりと採用され、それがマーケットにも受け入れらるかの評価も組み込んで、独自のフィードバックループが回るようなスマートコントラクトによる制作プロセスを開発する、などです。

より面白いコンテンツが作られ選び取られていくようなデジタル・ルールの基盤を作れたら、オンチェーンを通じた③コンテンツ制作のDAOも、トップダウン組織から生み出されるコンテンツを超えた場所になる可能性もあると思います。


DAOで人気のIP・キャラクターを作り出すことはできるか。あまり成功例がなさそうだし、難易度高いのでは

数年後にいくつかのDAO発のIPやキャラクターが大きな成功を掴んでいる可能性はありますが、既存のディズニーやポケモンや鬼滅の刃などの世界のトップコンテンツと肩を並べるのは、まったく簡単ではないと考えます。ただ、これは、既存の株式会社やネットコミュニティなどの組織体系から、同じようなレベルのIP・キャラクターが簡単には生まれないのと同じことだと思います。

DAO発で起こっている現象として興味深いのは、動画内でも登場しているNounsDAOのような潤沢な軍資金70億円(2023年5月時点)をもとに、同時多発的に、世界各国の企業やスモールチームがよってたかって企画施策が行われている事例が動いていることです。 Nounsのブランドやキャラクターの育成・発展をさせるため、ひとつの企画あたり1,000万円から1億円くらいの活動資金を得ながら、映画やゲームやeSports大会へのスポンサードなど、さまざまな宣伝活動やコンテンツ制作が、自律的に行われていっています

俯瞰した視点でNounsDAOを眺めてみると、スマートコントラクトが組織のコア機能に組み込まれたことによって、経営資源であるヒト・モノ・カネなどの貴重なリソースが世界中から集まる”青天井”状態を実現しています。10年で100兆円プロジェクトになったビットコインのような、ボトムアップ型の急激なグロースが遂げられようとしているということです。

さらにNounsDAOでは、1日ごとに500万円を超える軍資金が増え続けているので、20日で1億円を企画に使っても潤沢な資金が減らないような、資金調達と予算執行がスマートコントラクトによって超効率的に行われているため、このサイクルが何周か回った数年後には大きな社会的インパクトをもたらす可能性が高まってきています。

NounsDAOはお金をたくさんもっていて(お金の使い方もよくわかっている人たちが集まったから成功している)特別なモデルで、それを別のコミュニティで真似しても上手くいかないのでは

私もそう思います。例えば、このNounsDAOのモデルを横展開して成功させるのは、まったく簡単ではないと考えます。スタートアップと同じように ①資金調達、②予算執行のそれぞれで、集まるDAOメンバーの経営能力などが、プロジェクトの成功率にダイレクトに関わってくると思います。 スタートアップでも、経験に裏打ちされた経営能力の高いシリアルアントレプレナーが有利です。

ただ、経営能力が足りない起業家であっても、解決する社会課題がトレンドに乗っていたり、最先端のテクノロジー活用でスマートな解決方法を提示することで、VCから大型の資金を調達できたり、マーケットに受け入れられることはありえます。 同じく、DAOもどんな社会の課題をどんな方法で解決するのかを世界中に示すことができたら、仮に起案者たちの能力や資本力が足りていなくても、世界中から資金や才能が集まり、株式会社やネットコミュニティのような既存の組織がもたらす成果を超える可能性があると考えます。

それは、DAOの元祖であるビットコインをグローバル決済サービスの事業推進の組織と見立てたときに、企業はおろか国家さえも味方につけながら10年で100兆円規模のプロジェクトを実現した事実が示唆していると思います。

DAOは実力のある人とそうでない人が集まってみんなでコンテンツを作るのはあまり向いてないのでは

分かりみが深いです。面白いコンテンツは、みんなの平均的な意見を集約したものではなく、偏りや尖ったアイデアが価値を生むため、コンテンツ制作において、みんなの考えをまとめていく過程に、分権化されたみんなの投票などのアプローチは効果的でありません。ブロックチェーン技術を安直にストレートに使ってみんなの投票のシステムを作っても、うまくワークしないでしょう。ブロックチェーン技術は、偏りや尖ったアイデアを生み出す特性を持つわけではないので、偏りや尖ったアイデアを炙り出す仕組みそのものを作ったり、技術特性的に得意な別の機能=コンテンツ制作における価値の移転(資金調達や大枠の予算策定や予算執行)にフォーカスするのが良いと考えます。

また、海外のフルオンチェーンゲーム領域で起こり出しているトレンドや、ボトムアップ型コンテンツ制作の潮流を生み出したLootプロジェクトの思想からは、DAOはみんなで一つのコンテンツを作り出すのではなく、同じテーマで複数のコンテンツを同時多発的に生み出すインフラを作り出すような流れがあります。マインクラフトにおけるワールドを作れる環境や必要資金をDAOで用意して、そのワールド作成から先のワールド上のコンテンツ制作は、DAOに集まる個人やスモールチームや企業それぞれ別の企画として、同時に動き出して、別のワールドやコンテンツが作られていくことで、お互いに切磋琢磨されていくイメージです。

DAOで投票権利を与えても、なんだかんだデリゲート(委任)によって、一部の人たちに中央集権化されているように見えるのは、どう考えるべきか

実際に私も(『pNouns』というNounsDAOのサブDAO経由で)NounsDAOに参加してみて、世界中から毎日のように10万ドルを超えるようなガッツリとした企画提案のすべてをレビューして、オンチェーンDAO投票を行なっていくのは、時間的にも労力的にもけっこうキツイなと思っており、デリゲートの必要性は実感しています。間接民主主義は、リアルと同じように規模が大きくなると役割分担の流れで生まれるものなのでしょう。

ただし、デリゲートをする、しない、委任を取りやめる権限がDAOメンバーが”選択権”を持っていることは、とても重要な要素だと思います。 これまでの組織は、トップに”しか”権限が備わっていなかったところが、DAOメンバー自らの意思でデリゲート(委任)もできるけど、取りやめる権限もDAO参加者みんなが持っていれば、仮に悪い方向に進んでいく時にストップをかけられるか、かけられないかの大きな違いを生み出すので、コミュニティ内が真に分権化されているかの観点でとても大切だと思います。

NounsDAOはDAOそのものをゼロから作り出すルール作り出すの部分での楽しさもあるので盛り上がっている側面もあるのでは

私もそう思います。特にDAO投票やガバナンスの仕組みをブロックチェーン・スマートコントラクトでどのように解決するかについて、世界の優秀なエンジニアが提案・実装がなされている点は、web3時代の新しい組織の実践例としての面白さが、惹きつける魅力になっているのは間違いないでしょう。黎明期において、各テーマやローカルごとにDAOが立ち上がる時、はじめての新しい組織のカタチ自体が面白いという魅力に繋がることはDAO創出のメリットになりえると思います。

ただ、もし、この初期の面白さがなくなっていったとしても、”偉い人”がシステムで自動化=スマートコントラクトで作られたデジタル・ルールに置き換わることで、世界中の人たちが【信じられないくらい協力しあえる組織】を構築でき、10年で100兆円プロジェクトになったDAOでしが実現できない、より社会的影響力の大きなプロジェクトが実現される可能性を持つ魅力は残り続けるはずです。そのため、NounsDAOのような先行者だけが上手くいくとは限らないと考えます。

DAOは実力主義を加速させるものでは

私もそう思います。実力もそうですが、約束したことをしっかり行う、という信用も大切になっていくと思います。(デリゲートを含む)活動履歴や実績がオンチェーンでオープンに共有されていくので、DAOの貢献活動がフェアに評価され、それがその後の活動のしやすさに繋がっていくため、性別も年齢も国籍も関係なく、無名や若手の実力者が活躍できる場が提供されるという意味では、(自国通貨が不安定な国にとってのビットコインのほうがありがたいように)既得権益者が跋扈するような業界にとっては、待望の”福音”になる可能性もあります。

DAO活動が、既存の労働者市場の新しい選択肢としてワークするならば、社会全体にとっては、より人々が自身のスキルと好きなことが重なる、もっともパフォーマンスされる最適な”仕事場”を選べるようになり、社会全体の生産性が高まる可能性があるのではないでしょうか。

ちなみに、DIDなど今後のウォレットアドレスの利用のされ方にもよりますが、匿名であっても活動履歴や実績から生まれた信用が重要視されるならば、もし、何かの”やらかし”をしても、新たなアドレスでゼロスタートし直す敗者復活もしやすい構造かもしれません。 DAOは単に組織のひとつの形なので、もしいくつかのDAOが行き過ぎた実力者のみが活躍できるような場所になったとしたら、(株式会社に対するNPOのような)そのカウンターや受け皿としての、”実力よりも人間性重視”のDAOなどが生まれる多様性が生まれてくることにも期待したいです。


YouTubeの後編もさらに深い話が続くのでぜひご視聴ください!


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