分析力は、意思決定能力の一つである。
れっきとした日本語であるし、私たちは日常でもこの言葉を使用しているので説明は不要だと思うかもしれない。しかし、分析力とは何か?と聞かれたらあなたは何と答えるだろうか。自分の言葉で説明できるだろうか。
マーケティング部や経営企画部などに所属している人は、自分の分析力は高いと思っていることが多い。しかし、HAでは必ずしもそういう人の分析力が高いとは限らない。分析という言葉は、一般語であるがゆえにその人独自の解釈になりやすく、ディメンションの認識に齟齬が生まれてしまうからだ。
分析とは何か
まずは分析という言葉の正確な定義を理解する必要がある。
分析には、SWOT分析や財務分析といったように、様々なものがある。例えば、SWOT分析は、企業を取り巻く外部や内部の環境を、ポジティブな要素とネガティブな要素に切り分けて考察する分析のことだ。
外部のポジ要素は機会、外部のネガ要素は脅威、内部のポジ要素は強み、内部のネガ要素は弱み、の4つに分類する。これは、情報把握力で説明した通り、情報をキャッチして整理して区分しているにすぎないので、分析ではない。こういった思考をスピーディーに実行するのは情報把握力のプラス行動である。
一方、分析とは、情報を切り分けた先に、そこから何が言えるか、ということを自分なりに推察し、仮説を立てる思考である。例えば、外部環境で、何らかのソースから「こういったことが増えている」という情報が取れたとしよう。これは情報のキャッチである。そしてこの情報は機会だな、と判断すること。これは情報の整理である。ここまでは情報把握力の範疇で、分析とは、この情報を別の情報と照らし合わせたとき、増えている原因はもしかしたらこういうことなのではないか、と推論したり仮説を立てるような思考を指す。
分析的な行動とは、結果だけにフォーカスせずに原因は何かを探ることである。また、推論・仮説立てするなどして、不足する情報を思考で埋めることである。情報を額面通りに受け取らずに、ちゃんとしたエビデンスはあるのか、とファクトを求めることである。トヨタ生産方式の有名な手法で、なぜなぜ分析がある。なぜ?と繰り返して情報を深く掘り下げて検討し、その本質や背景、原因を見いだす、というような意味の分析手法であるが、こういった行動がHAにおける分析のイメージに近いと思う。
演習における行動
それでは演習における具体的な行動を考えてみよう。
グループ討議・面接
基本的に思考の傾向はインバスケットでみる。しかし、グループ討議や面接でも、分析力を発揮することはできる。例えば、ある人の問題行動があったとする。まずは関係者全員から話を聞く、つまりファクトを収集して客観的に対応する行動は分析力のプラスだ。
逆に、すぐさま是正しよう・改めようといった行動は分析マイナスな行動であると言える。また、与件には書いていないからわからない、ということを言う人がいるが、これは分析マイナス行動である。わからないことを、自分なりに思考を回転させて論理構築するのが分析プラスの行動だ。皆さんはどう思いますか、と他のメンバーに問いかける人もいる。これは分析のプラス・マイナスどちらとも取れる行動だ。他の人の意見を尋ねて、そのうえで議論を戦わせようとする行動なら分析力のプラス。一方、自分ではわからないから他者の見解にすがろうとする行動なら分析力のマイナスである。
インバスケット
インバスケットでは、表面的な対応に終始するのではなく、組織の課題形成ができていれば分析力は高いといえるだろう。概念形成ができていない、とレポートで指摘された人もいると思うが、それだけのコメントではどうすればよいか今一つ掴めないという人も多いのではないだろうか。
例えば、AさんとBさんは仲が悪い、CとDも仲が悪い、というような状況であった場合、ABやCDの仲が悪いというのは個別的な事象である。こういった個別事象に共通している性質に着目して、問題の本質を抽出するということが概念形成だ。この例だと、組織内の風通しが悪い、などが考えられる。
組織に散在する個別事象に対して、モグラたたきのように対応するのではなく、その本質や根本の原因を探ろうとすることが概念化するということだ。あるいは、結果だけでなく、原因にフォーカスする、ともいうことができるだろう。いずれにせよ、なぜなぜ分析のようなアプローチが必要となる。
注意点
分析力がプラスの人はどんなことに気をつければよいだろうか。
本質追及するタイプが多いと思うので、率先性、つまりイニシアティブが低くなることが考えられる。あるいは物事を深掘りして検討することを優先させると決断力が弱くなることも考えられる。
深く考えるということはもちろん悪いことではないが、しかし、仕事においてはスピードが求められるのも事実である。スモールステップで事を進めたり、まずは走りだしてみて、それと同時に考えを深める、といったことを意識すると良いだろう。また過度に確実を期することなく、PDCAサイクルを回すことを意識すると良いだろう。完璧を求めるとその分決断は遅くなる。やってみて、軌道修正が必要ならその都度方向転換する、というやり方も試してみてほしい。PDCAを細かく設定し、少しずつ精度を高めていくことを意識したい。
分析力を高めるには
最後にどうやって分析力を高めていくかを考えてみよう。
テクニック的には、やはりロジカルシンキングの能力は高めたい。フレームワークの知識なども得ることで、思考系のスキルを高めていってほしい。これらは、誰もが訓練によって開発できる能力である。あとは意識づけのような話になってしまうが、何に対しても、当たり前だとか、所与のものだとか考えずに、それはなぜだろう?というように自分なりに考える癖をつけることが大切であると思う。疑問を持ち、それを自分の言葉で説明できるようにするということが、分析力を高めるには有効であると思う。
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