「胆」は「裁判官」「決断」「ちょうつがい」【新訳五臓六腑解説⑦】
「胆」について書かせていただきます。
きっと、「胆」と聞いても、「胆嚢」と聞いても、多くの人は何をやっているところなのかわからないのではないでしょうか?
まずは、西洋医学的な胆嚢の働きから説明して、東洋医学的な考え方を説明していきますね。
胆嚢の働き
胆嚢の働きは、肝臓で生成された胆汁という消化液を貯め、お肉を食べた際など、脂肪を分解するために胆汁を出す量をコントロールすること。
胆汁は、脂肪分が水に溶けにくいため、「乳化」といって、水に溶けるようにし、消化、吸収を助けているんです。
胆汁は胃の続きである十二指腸に分泌され、胃酸を中和するためにアルカリ性になっています。
胆汁は、ものすごく苦いらしいですよ。
胆汁がうまく出ないと、十二指腸に炎症が起こったり、お肉や油ものを食べた際に分解できなかったりするんです。胸やけします。お腹が張ります。口の方に苦い液が上がってきたりします。
胆嚢自体が動かないと、胆汁が中で滞って胆石になったりします。
また、胆嚢の調子が悪くなると、黄疸が出たりします。
これが西洋医学的な胆嚢の捉え方。
…でも、東洋医学では少し違った考え方をしているんですよ。
私が解説していきますね。
「胆」は「奇恒の腑」
最初に、「胆」は「腑」に分類されるのですが、腑とはそもそも、器官の中が管状になっていて、中身が詰まっておらず、空洞になっているんです。
腑の性質上、中にものをおさめておかないおかないというか、ものが通り過ぎて、何かをためるというイメージはないんです。胃も、小腸も、大腸も腑ですが、胆嚢は中空の器官ですが、胆汁をためておきます。
なので、通常の腑とは違うので胆は「奇恒の腑」という呼ばれ方をするんです。
形は腑だけれど、働きは中にものをためる「臓」の働きをしているのが奇恒の腑。
奇恒の腑は、他にも「子宮(女子胞)」「脳」「髄」「骨」「脈」があります。
表裏関係は「肝」
胃の説明のところで、「五臓」と「六腑」には表裏関係といって、ペアになっていて、相互に補いあう関係があると書いたのですが、胆と表裏関係をつくっているのは「肝」なんです。
「肝」は「将軍」で、からだを動かすときなど、手を動かす必要がある場合に、手に血や気をどのくらいの割合で送ったらいいのか?などを調整する働きがあって、「胆」はその「決断」をつかさどっています。
「決断」のニュアンスも、将軍が下した命令に対して、全体からのフィードバックを受けて、決断を下すイメージ。全体のバランスを整えるという感じでしょうか。
また、胆汁は肝で生成されることから、相互に補いあい、消化吸収を助ける働きがあるんです。
「胆汁」は、東洋医学用語では「精汁」と言います。
「胆」は「裁判官」
胆を擬人化したときの性格について、ちょっと説明させていただきたいのですが、胆の性格は「混じりっけがない」「穢れがない」という感じ。
何にも染まらず、中立的な立場を取ることができるというのが、胆の性格。
胆の働きは、「裁判官」で、中立的な立場で何かを「決断」することなんです。
将軍たる「肝」を補佐する立場の「胆」は、しっかりとしているけれど、ちゃんと周りのバランスを見ることができるしっかりもの。
穢れのない純粋、中立的な性格で、時に「大胆」な決断を迫られることもあるけれど、淡々とその決断を下せるようなイメージでしょうか。
胆が病むと、決断できなくなったり、優柔不断になってしまうこともあります。
私が前に診させていただいた、胆嚢炎で来院された方は、お腹が痛くなる前から、ものごとを決断しにくくなったり、自分の意見がまとまらず、何がいいのか、わるいのかがわからなくなっていたとおっしゃっていました。
また胆に異常が起こると、潔癖症になるというか、掃除ばかりしてしまう状態になることもあるらしいですよ。
「陰」と「陽」の境目、「ちょうつがい」
胆は、中立的で、「陰」と「陽」の境目、どちらにも属さない、ドアの「ちょうつがい」のような立場にあるという説明がされることがあります。
専門的な言葉でいうと「枢」
胆の気が流れるのは、からだの真横。体側と呼ばれる部分。足の薬指から出発し、足の外側面を上行し、仙骨に入り、脇腹、脇の下を通って、頭の側面を流れるんです。
からだの前側でなく、後ろ側でもない、ちょうど「境目」の部分。
この部分に症状が出ると、長引きやすいというか、膠着状態になりやすいんです。
熱が出たとしても、熱が上がったり、下がったりを繰り返してしまうんです。
胆が病んでくると、いろいろな症状が動きにくいイメージがあります。
シーソーが片側にガタッと崩れてしまうけれど、真ん中の支点の部分が壊れていて、からだの左右バランスを元の中立的な状態に戻せなくなる感じ。なんとなくイメージできますか?
胆の働きの中に、陰にも陽にも属さず、バランスを取る作用があると頭の片隅に入れていただけると嬉しいです。
「胆」のまとめ
みなさん、胆のイメージはつかめましたか?
胆は「腑」に分類されるけれど、中に「胆汁(東洋医学では『精汁』)」を蓄えていて、形は空洞だけれど働きとしては「臓」に似ているので「奇恒の腑」に分類されると。胆汁は、消化、吸収に関わっています。
胆は、将軍である肝を補佐し、決断をつかさどっていて、胆が病むと決断できなくなったり、潔癖症になったりします。
胆は陰にも陽にも属さない、ちょうつがいのような働きがあって、長引く症状の場合、胆の経絡に異常が起こっている可能性もあるんです。
…本を読んでいても、なかなか胆のイメージってつかみずらいんですよね。
ほとんどの人が胆の存在を意識したことがないんではないでしょうか?
胆石とか、胆のう炎にならない限り、人生で意識されることがないほぼない臓器だと思います。
ですが、からだの左右バランスを取ったり、決断をつかさどっていたり、胆の働きって、日常生活にも大きく関わっているんです。
私は、日々の施術の中で、結構な頻度で胆の調節をしている気がします。
からだの左右差を取るときにはほとんど意識する胆。
経絡的に、仙骨に入っていて、女性に多い股関節の痛みなどの調整や長引く腰痛にはかなりの割合で胆をめがけた施術をします。
あまり意識されない臓器でも、からだにとっては大きな役割があるのだと、私は思っています。
私の【新訳五臓六腑解説】を読んで、少しでも胆のイメージをしていただけたら嬉しいです。
意識してあげると、胆も喜ぶと思いますよ。
読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
「臓腑経絡学」(著:藤本蓮風 発行元:アルテミシア)
「基礎中医学」(著:神戸中医学研究所 発行元:燎原)
「臓腑経絡詳解」(著:岡本一抱 江戸時代)